「おはよう!美月ちゃん。」

「よっ!総司早いなー。」

「珍しい…今日は雨が降るのかもしれぬ。」

「一君、ほんと朝からご挨拶だね。」


道場の入り口には一緒に来たのか、千鶴、平助、一君の姿があった。
それに続く様に一年生も何人か入ってきて皆部室へ移動していく。


「僕達も着替えに行こうか。」

「ああ。」

「じゃ、二人とも今日もサポートよろしくなあ。」


そう言って三人も部室へと移動してしまった。
残された私と千鶴はタオルや飲み物の準備をしつつ待機していると部活が始まった。

準備運動から素振り、切り返しを経て掛かり稽古に入る。
時間を計り、太鼓で合図を送りながら見学しているととんとんと肩を叩かれた。


「美月ちゃん。」

「ん?」



千鶴の視線は私の手元を見ているようで、私はストップウォッチを思わず見つめる。


「まだ止める時間じゃないけど?」

「あ、違うの。その…指輪。」

「え?」


あ。
そうか。右手にしていた指輪のことか。
千鶴と遊んだ時にはつけてなかったんだよね。
いくら右手でも薬指にはめていたら意味のあるものに見えるだろう。


「えっとね…。」

「もしかして、沖田君?」

「ええ!?」

「やっぱり!実はそうなんじゃないかって思ってたの。」

「そ…そうなんだ。」


やっぱり女の子は鋭いのか。
千鶴は嬉しそうに笑って良かったねと祝福してくれた。
…実は一年前から付き合ってますと言っていいものか。


「可愛い指輪だね。」

「うん。宝物だよ。」

「ふふ。今度は恋愛話たくさんしようね。」

「もちろん。千鶴は好きな人って…。」

「あ!美月ちゃん。そろそろ時間だから止めないと。」

「え?ああ!」


ドンと太鼓を叩いて稽古を止める。



「よし。少し休憩をいれる。水分補給しろ。」


土方さんの号令で皆防具を外しはじめた。
掛かり稽古をずっとやり続けていたせいか皆息が切れている。


私と千鶴はスポーツドリンクを用意していると続々と皆が周りに集まってきた。



「あーーーすっげえ喉乾いた!美月、多めにちょーだい。」

「はいはい。」

「俺にもお願いできるだろうか?」

「はーい。」

「僕も。」

「はいはい、皆さん並んでくださいね。」


てきぱきと千鶴が準備してくれていたおかげであっという間にみんなの手元に飲み物が行き渡る。


それぞれ床に座り込み休憩をしていると私の横に来た原田さんがじっと私を見ていた。



「原田さん?おかわりですか?」

「いや…。」


すっと原田さんの手が私の頬に伸びる。
何かついているのかなと思ってじっとしていると原田さんがふっと微笑んだ。



「お前、誰かのもんになっちまったのか。」

「…え?」

「は?左之、何言ってんだ?」


すぐ近くにいた永倉さんはぽかんと口を開けて原田さんを見ていた。
私も驚いて言葉がでない。



「だってよ、指輪してんじゃねえか。」

「なにぃぃぃぃぃ!?」

「えええ!?」

「あああああの!その!」


永倉さんや平助の叫び声に思わず慌ててしまう。静かだけど一君や土方さんも一瞬目を丸くしていた。


少し離れたところにいた一年生までざわついている。
いや、別にいいじゃない。私に彼氏ができるのがそんなにおかしいことですか!?


文句の一つも言いたいと私が口を開こうとした時だった。






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