「僕は美月の初めての彼氏でしょ?」

「え?うん。」


その通りだ。
私は大学に入って総司と付き合うまでいわゆるお付き合いというものとは無縁だった。
だから今、よく慌ててしまうのだ。経験不足で。



「だけどね。僕は美月が初めての彼女じゃない。」

「…。」


それは知ってるよ。
でも改めて言われると良い気分じゃないよ。
過去を消すことなんてできないけどさ。



「もしも昔に戻れるなら、僕は美月に出会うまでどの女の子とも付き合わなかったと思う。」

「え…。」

「でもそれは無理でしょう?」

「うん。」


わかってるよ。
それに戻れたとしてもそんなことしてとは思わない。過去があって今の総司がいるわけだし。



「僕は初恋も、初めてのお付き合いも。全部違う人にあげちゃったんだ。だけどね…。」


総司がぎゅっと私の手を握る。
その温かさと力強さから真っすぐな思いが伝わる気がした。



「これからの僕は全部美月にあげる。」


全部…?



「そ…総司。まだ付き合って一年だよ?そんなプロポーズみたいなこと言っちゃって。本気にしちゃうよ?」


と笑ってみせる。
本当はもう半分本気にしてるけど。
でも私だけが本気にするのは嫌なんだもん。


「本気にしてよ。」

「総司?」

「僕は本気だから。」

「そう…じ…。」


ねえ、どうしたの?
一年前まではそんな甘いこと言わなかったじゃん。
どれだけ私の涙腺を崩壊させれば気が済むの?


「だから、これ。」


いつの間にか総司の手には小さな箱。
ゆっくりと開くとそこには綺麗な指輪があって。


「サイズ合ってるといいんだけど…。」


そう言いながら総司は指輪をとると私の指にはめた。
良かった!入ったよ!
途中の関節で詰まるとかだけは本当に避けたかったから。


「総司…これじゃ本当にプロポ…。」


私の口を人差し指で押さえて言葉を遮った。


「こんなに誰かを好きになるのも、こんなに一緒にいたいと思えたのも美月が初めてだよ。最初の恋はもうないけれど、これを最後の恋にしたいんだ。」


ぎゅっとそのまま私を抱きしめて総司は言葉をつづけた。


「今はまだこんな指輪だけど、卒業して就職したらもっとちゃんとしたやつを買って、もう一度ちゃんと言うから。だからそれまでは…。」


私の左手を総司の右手が優しく撫でる。
薬指にはまった指輪に触れながら耳元に声を落とした。


「この指輪でここは僕の場所って予約させて。」

「っ…!」



左手の薬指。
そこを予約するってことは。



「愛してるよ。」



たった六文字がまた私の涙腺を崩壊させた。



ああ、愛してるって言葉は美月に言うのが初めてかもって総司が呟いていたけど。


それに答えることも、ありがとうを言うことも何もできない。
口からもれるのはうっ…という嗚咽する声だけ。



「わっ…わっ…。」

「??」

「わだしもぉ!あ…あいぢでる!」

「っ…あははははは!ひどいよ!顔も声も!」

「ひっひどいよぉ!」

「うそうそ。」



愛してるよ。
またそう言って総司が腕の中に私を閉じ込めた。





ねえ。総司。



大好きだよ。



大好き。



愛してる。






「美月。僕も愛してるよ。」




総司の優しい手が頭を撫でる。
見つめ合うと自然に目を閉じてキスをした。


それはまるで。
誓いのキスの予行練習みたいで。



ああ。
こんな幸せで本当にいいのかな?


大学生の時が一番楽しいだろうから、卒業したくないなあなんて思っていたのに、今は卒業するのも楽しみになってしまった。

指輪の感触を確かめながら。
残りのキャンパスライフを総司と思い切り楽しんで過ごそうと思った。


甘い甘いキャンパスライフを。









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