おかゆを食べ終わり私はベッドではなくソファに移動した。ずっと寝ているのも体が痛くなるしね。
「ほら、美月、ちゃんとあったかい格好しててよ。」
横に座っていた総司がふわりと肩にブランケットがかけてくれた。
なんだろう。
病気になると総司が一段と優しくなる気がする。
うん。風邪も悪くないかも…って違う違う!
そもそも今日は一年目の記念日なんだってば!
「あの…総司。」
「ん?」
総司がぐいっと私を引き寄せたせいで私の頭はボスンと総司の肩に収まる。
頬に温もりと総司の香りを感じてなんだか安心してしまった。
「ごめんね…今日せっかく出かけようとしてたのに。」
「そんなこと気にしないの。いつでも出かけられるじゃない。」
「でも、一年目の記念日は今日しかないのに。」
「美月はそういうの好きだもんね。」
頭を撫でながら笑う総司に少しだけ不満の表情を見せた。
だって記念日を気にしているの私だけみたいじゃない。
「総司はそういうの気にしないもんね。」
「まあね。だけど…。」
ちゅっとおでこに柔らかい感触。
「美月が喜ぶからこれからも毎年ちゃんと二人でお祝いしたいとは思うようになったよ。」
だから。
だから!!!
そういうの反則なんだってば!!!
おでこを抑えて総司を見ていると翡翠色の目に顔を赤くしている私が映る。
「っくく…美月ってほんと可愛いよね。一年たっても変わらなくてさ。」
笑いだしたらとまらなくなったのか、しばらく横で総司が笑っていたけれど、私はそれどころじゃない。
熱くなる頬が少しでも早く冷めるように冷蔵庫からとってきたペットボトルを両頬にあてて冷やしているとその姿を見てまた総司が笑った。
その後は録りためていたテレビ番組を二人並んで見ていた。
すると案の定、私は眠くなってしまって総司の膝枕で寝てしまったらしい。
そして。
「ん…あれ、ベッド。」
目を覚ますとベッドでちゃんと寝かされていた。時計に目をやるともう夕方の六時だ。
「も…もうこんな時間!あれ、総司?」
部屋に総司の姿がなかった。
1Kの部屋で隠れる場所なんてどこにもない。
玄関の方から物音がしたと思うと部屋の扉が開けられた。
「あ、美月起きたの?」
「総司!どこに行ってたの??」
「晩御飯の材料。」
そう言って総司は手に持っていた袋を顔の位置まで上げる。
「もうだいぶ食欲も戻ってるみたいだし、鍋とかなら食べられる?野菜多めにするから。」
「私が作ろうか?」
「いいよ、まだゆっくり休んでて。」
「でも…。」
立ち上がろうとした私の両肩に手を置いて総司がソファへ押し戻す。
「いくら僕でも野菜を切るぐらいはできるんだから。ここにいること。」
そう言ってニッと笑うと総司はスーパーの袋を持ってキッチンへと消えていった。
しばらくガタンガタンと料理とは思えない音に心をハラハラさせながら待つと部屋の扉が開いて総司が鍋を持ってきた。
「でーきた。」
「だ…大丈夫?」
「何が?」
テーブルに鍋をおいて蓋を取るとそこにはおいしそうなにおいを漂わせたよせ鍋の姿が。
さっきの激しい音はなんだったわけ?
しばらく鍋をつついていると総司が思いだしたかのようにキッチンへと歩いていく。
「総司?」
「忘れてた。」
そう言った彼の手にはシャンパン。
「せっかくの記念日だし。少しぐらい飲んでも良いかなって。」
「わあ!ありがとう!」
グラスに注いで乾杯をする。
うんうん、確かにちょっと特別な日っぽい。
「ま、食べてる物は鍋なんだけどね。」
「いいの!総司が作ってくれたから!」
「…美月って単純。」
台詞はひどいけど目を逸らして赤くなっているところを見ると照れてるんだね。
ふふ、総司も一年たってもちっとも変わらないよ、そういうところ。
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