「じゃあまた来週!!!」

「うん!気をつけてね!」

「ああ、お前らも。ほら、しっかりしろよ新八。」

「それでは行くか。雪村。」

「みなさんまた来週!」


部屋を片付け、土方さんをベッドまで運んだ後、原田さんと平助が永倉さんを送る係になってくれ、一君が千鶴を送ることになった。

そして帰り道が同じ方向の私と総司はみんなに手を振って見送る。


「あーお腹いっぱい!楽しかったね。」

「うん。目を覚ました土方さんがどんな顔をするか楽しみでしかたないよ。」

「何したの…。」

「秘密だよ。」


ウィンクしたって駄目だからね。
そんな爽やかそうにしても騙されないからね。


とりあえず家の方に向かって歩き出した。
外はすっかり暗くなっていて人もほとんどいなかった。


「あ!そうだ!…はい!総司。」

「あ。」


バッグから取り出したのは手作りのクッキー。ココアやプレーンやアーモンド…ついついいろんな味を作ってしまったんだけど大丈夫かな?


「ねえ、食べていい?」

「え?ここで?」

「じゃあそこの公園で。」


そう言うと総司は私の手をひいて公園のベンチへと向かっていった。
わりと大きな公園のせいか外灯がいくつかあって遊具や花を明るく照らしていた。



ベンチに座るとシュルシュルとリボンをほどいて包まれていた箱を開ける。


「クッキーだ。いただきます!」

「うん…あの…大丈夫かな?」

「美味しい!」

「良かった。」


味見はちゃんとしてるけど、何だろうね、このドキドキしてしまう感じ。


「はい、美月。」

「え?んむ…。」

総司がクッキーを一枚、私の口に放り込んできた。さくっと一噛みすると甘さが口に広がる。昨日家で何度も食べた味だ。


「わ…私はいっぱい食べたから。」

「そうなの?だから少し丸くなったのかな?」

「ええ!?」

「嘘に決まってるでしょ?」


ぷにぷにと私と頬をつつきながら笑う総司。いやいや、笑いごとじゃないよ。大問題なんだから!


「じゃあ、こっち。」


はいと差し出されたのは私が今日のゲーム用に買ってきたチョコだった。
誰に当たるかわからないし、ちゃんとお菓子屋さんで買ってきたもの。


「え!?なんで!?…やっぱりあのチョコをカバンに入れたのは総司!?」

「うん。」


違う味のクッキーを口にいれてもぐもぐ食べながらあっさりと総司が頷いた。


「なんで…?」

「二個買ったの。一つは自分用。もう一つは美月のとすり替える用。」

「??」


どうしてそんな面倒なことをしたのか?
私が持ってきたものはお菓子屋さんで買ったもので手作りでも何でもないのに。


私の言いたいことが伝わったのか、総司は小さくため息をつくと私の頬に手を触れた。


「嫌だったから。」

「何が?」

「手作りじゃなくたって、美月がチョコをあげるのは僕だけでいい。君からのチョコを僕以外に渡したくなかっただけ。」

「っ!!!!!」


珍しく少し赤くなっている総司…以上に私の顔が熱を持った。
絶対真っ赤になっている…はずだ。


「相手が千鶴ちゃんだったら別にいいかって思えたけど確率的に低いだろうし。先にすり替えちゃった。」


自分でもしょうもないヤキモチを妬いていると思い始めたんだろう。
段々総司の言葉が小さくなって、視線も逸らしてしまう。


だけどそんな姿が。
そんな考え方が。


可愛いと思ってしまうんだから、私もどうしようもない奴らしい。


「じゃあ、はい。」


差し出されたその包みを私は総司に押し返す。


「?」

「私のチョコは総司以外にあげちゃだめなんでしょ?だったらこれもちゃんと貰ってよ。」

「…うん。」


目を丸くしていた総司はチョコを受け取るとふにゃりと笑ってありがとうと言った。



今までバレンタインなんて友達と交換したり、家族にあげるぐらいのイベントぐらいにしか思っていなかったけど。


嬉しそうに笑う総司を見てキュンとしてしまった。


好きな人に笑ってもらえるってこんなに幸せなんだ…。



「美月。」


ギュッと引き寄せるように総司が私を抱きしめた。ふわふわのマフラーがおでこに当たって心地良い。


「ホワイトデー、楽しみにしてて。」

「え?何してくれるの?」

「美月が望むことは何でも。」


そう言って総司が私のおでこにキスをした。
どうしようどうしよう。
幸せすぎて心臓が壊れそうです。


ホワイトデーまでこの心臓がもちますように。
私は祈りながら目を閉じた。






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