「うっめー!キムチ鍋最高!!」
「平助、こっちの豆乳鍋も美味いぞ。」
「…良いダシがでているな。ほら、雪村、美月とってやる。」
「あ!ありがとう!」
「ありが…。」
「はい、美月。とったよ。」
一君が千鶴の分をとっている間に総司がお椀に具材をとってくれた。
「じゃあ私が総司のを…。」
「ありがとう。」
総司は私からお椀を受け取ると一度テーブルに置いた。そして空いたお椀に適当に具材をとっていく。
「??」
「はーい、土方さん。どうぞー。」
「ええ!?」
「?」
総司が…。
あの総司が土方さんに鍋の具をとってあげる!?!?!?
どうしたの!今日は雨どころか槍とか爆弾とか降ってくるんじゃないの!?
「ああ、すまねえな…………って総司。」
「はい?」
総司は私が渡したお椀を手に取りふうふうと冷ましながら白菜を頬張っていた。
「てめえ、何だこれは。」
「え?バランスよく野菜もお肉もキノコもいれましたけど?」
「白菜の間に隠しきれねえ生肉が入ってるだろうが!!!」
「えー?気付かなかったなあ。」
いや、気付くよ。
がっつり赤いよ。
最早包み隠すこともしなくなったのね、イタズラ。
「少しぐらい火通ってなくても大丈夫だって!土方さん!」
笑いながらがつがつ食べている永倉さん。…まだ火が完全に通っていないお肉も食べているようだった。
「大丈夫じゃねえ!豚肉だぞ!」
「いくら俺でも豚と牛と鶏の違いぐらいわかるぞ!」
「そこじゃねえ!てめえは食品衛生の授業で何を聞いてるんだ!!!」
少し火が通ってなくても大丈夫なのは牛だよ、永倉さん。
豚とか鶏は寄生虫とか病原菌がいる可能性があるから火を通さなくてはならない…。
という完璧な回答を一君が淡々と告げていた。
彼のお椀に入っているのは大量のお豆腐。
一君…バランスよく食べようね。
「そういやそんなこと言ってたが…まあ大丈夫だろ!酒飲んでアルコール消毒だ!」
「…ま、新八っつぁんの腹を壊せる菌はなかなかいないだろうけどな。」
「ああ。頭まで筋肉だ。痛みとか感じねえだろ…。」
ゆっくりとお酒を飲んでいる原田さんとハムスターのように頬を食べ物でいっぱいにした平助が半眼で永倉さんを見ていた。
たくさん作ったお鍋も大の男が六人もいたらあっという間になくなって。
私と千鶴でサラダや簡単なおつまみを追加し、みんなでお酒をのんびり飲む流れになった。
「千鶴、甘いの作ろうか?」
「あ、うん!」
「ほら、かせよ。俺が作ってやる。」
私の手からするりとお酒の瓶をとった原田さんが手早く私と千鶴用にカクテルを作ってくれた。
「ほら、薄めにしてやったぞ。」
「ありがとうございます!」
「わーい。パッソア大好き!」
こういうのがパパっとできるから原田さんはもてるんだろうなあ。
だってほら、見てよ。
永倉さんと平助なんて飲みながら騒いでるし、総司は土方さんに濃いお酒飲ませてつぶそうとしてるし、一君は黙々と日本酒飲んでるし。
「ったく…あいつらは。お、そういえば新八がゲーム持ってきてたぞ。やるか?」
「何ですかー?」
「あ!Wiiだ!」
「土方さん、テレビ借りるぜ。」
「おお。」
総司のお酒のせいで視点が定まっていない土方さんが返事をする。
多分何言われたかもよくわかっていないだろう。
「いろいろあるぜ。何するか。」
「あ!マリ○カートがいいです!」
「いいね!やろやろ。でも何でWii?」
「ほら、あれだよ。新八が勝負するって言ってただろ?チョコをかけて。」
「あ。そういえば。」
「よっし!ゲームするんだろ!?優勝・準優勝の二人が美月ちゃんと千鶴ちゃんのチョコだぞ!!!」
「絶対負けねえかんな!」
「俺も負けるわけにはいかぬ。」
「ああ?なんだ?ゲーム?」
「あ、土方さんは別に参加しないでいいですよ。そこで寝ててください。永遠に。」
「ああ!?」
ゲームを準備しているとさっきまで酒盛りをしていたみんなもテレビの前へと移動してきた。
ソファに座ったり床に座ったり…なんだか大家族みたい。
「一度に四人までできるからな。すぐ決着つくだろ?」
「あー大丈夫かな?」
「頑張ろうね!」
そして私たちはゲームを始めた。
画面の動きに合わせて体も動いちゃう平助と酔っ払って逆走する土方さん、そんな二人を赤甲羅で攻めまくる総司と私で戦い、総司が一番、私が二番になった。
もう一つのチームは原田さんが一番、一君が二番になっていた。
私と総司、原田さん、一君で上位四位を決める戦いをすることになり。
アイテムが良かったこともあり私が一番、原田さんが二番になった。
「おお!美月ちゃんが一番か。じゃあ自然と千鶴ちゃんのチョコは美月ちゃんだな。」
「じゃあ美月のは俺が貰っていいのか?」
「いいな…左之さん。なんで俺新八っつぁんのチョコなんだよ。マジでいらねえ。」
「ははは!ありがたく食えよ!プロテイン入りだ!!!」
「げええ!めちゃくちゃまずそうじゃん!!」
青くなる平助が永倉さんにチョコを投げ返しているのを眺めていると原田さんが横に座ってきた。
「なあ、美月。お前のチョコ。貰って良いのか?」
「あ!はい!持ってきますね!」
そう言うと私は立ち上がりテーブルの方に置いておいたカバンを取りに行く。
中をあけるとそこには…。
「あれ?」
私が用意していたはずのチョコがなかった。
ラッピングされているのは後で総司に渡す用。
そしてもう一つは。
(これ…さっき総司がコンビニで買ったやつ???)
みんなと集まる前に総司がコンビニで買ったと言いながら見せてくれた箱がそこにはあった。
総司の方を振り向くとその手にも同じ箱。
あれ?どういうこと??
じゃあこれは誰の…?
「どうしたの?美月。早く左之さんに渡してあげなよ。義理チョコ。」
「おいおい。何でお前が義理って言うんだよ。」
「当然だ。義理以外の何物でもない。」
「もっちろん義理だろ、義理。」
「お前らなあ…。」
悲しく男同士で交換をしていたみんなの刺のある言い方に原田さんが苦笑いをする。
とりあえず私は謎のチョコを手に取り、原田さんへと渡すことにした。
「ありがとうな。」
「いえいえ。いつもお世話になってます!」
ぽんぽんと頭を撫でながら原田さんが微笑んだ。綺麗な黄金色の瞳にときめく女子が何人いるんだろう?
「はい、美月ちゃん。美味しくできたかわからないけど…。」
「千鶴の手作り!?美味しいに決まってる!」
千鶴が恥ずかしそうに渡してくれたのは綺麗にラッピングされた袋。
中身はパウンドケーキらしい。
「家でじっくりゆっくり食べるー!!」
「早く食べてね??」
チョコの争奪戦が終わってもしばらくゲームを続けることになった。
とはいっても集中してやっているのは平助、千鶴、私と一君で。
原田さんはそれをお酒を飲みながら楽しそうに見ていて、永倉さんは潰れていた。
そしてもう一名。
土方さんも完全に潰れていて総司は他の部屋を物色していたらしい。
ゲームに夢中で気付けなかったの。
ごめんなさい、土方さん。
帰ってきた総司の清々しい笑顔、忘れられない。
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