―土曜日―


約束の時間より少し早く集合場所についてしまった。
駅前は休みというのもあって人が多い。
きっとすぐに一君と千鶴あたりがやってくるだろうと私は行きかう人をただぼーっと見ていた。


するとこつんと頭に小さな衝撃。


振り向くとそこには微笑んでいる総司が立っていた。



「総司!?早いね!」

「何それ。僕が早いと何か問題?」

「問題っていうか…そうだね、しいていえばこの後の天気が心配…あいた!」


でこぴんがとんできて思わず目を閉じた。
するとすぐに頬に掌の感触。


「可愛くないこと言う口は塞いじゃうよ。今すぐに。」

「だだだだめだよ!外だから!」


くすくすと笑って私の顔から手を離すと総司はでこぴんのせいで少しだけ乱れた前髪を整えてくれた。


「…チョコ持ってきたの?」

「え?あ!総司のはちゃーんと作ってきたよ!後で渡すね??」

「ありがとう。…それは嬉しいんだけど、そうじゃなくて。」

「あ。」


総司が言ってるのは永倉さんが言っていたやつか。


「一応。だけど買ったやつにしたよ?」

「そう。」

「総司も持ってきたの?」

「そこのコンビニで買ったよ。」


ラッピングされた小さな箱を手に持って私に見せてくれる。
コンビニで総司がバレンタイン用のチョコを買うなんて想像するだけで笑えた。
店員さんもさぞ驚いただろうに。


「何笑ってるの。」

「だって…。」


すぐに箱をカバンにしまい、総司は巻いていたマフラーで口元を覆った。


「寒い?」

「少し。美月は大丈夫?」

「うん。」

「手、繋いであげようか?」


すっと差し出された大きな掌に思わず手を伸ばしたくなるけれど…。


「…もうすぐ一君や千鶴が来るもん。」

「残念。」


私が断るのをわかっていただろうに。
本当に残念そうに言うから少しだけ困る。
いっそこのまま二人でどこか行ってしまおうかなんて、総司みたいなこと考えてしまった。



「総司が来ている…。」

「沖田君が早い!!」

「二人ともご挨拶だね。」


総司の後ろから予想通り、二人の姿が現れた。
そして原田さんや永倉さん、土方さんもすぐに到着し、ギリギリに平助が走り込んできた。


「よし、買い出し行くか。」

「酒な!酒!!」

「おいおい、メインは鍋だろうが。」

「キムチ!キムチ!」

「騒ぐな、平助。材料はちゃんと買うから安心しろ。」

「抜群の安定感だよね、一君。」

「うん。安心するね。」

「じゃあとりあえずスーパー行ってから土方さんの家ですね?」

「ああ。」


私たちは急ぎ足でスーパーへ向かい、食材やお酒、お菓子を買い込むと近くの土方さんの家に向かった。


「…何これ。」


オートロックの玄関に入るとエレベーターへ向かう。とても学生の一人暮らしで住むとは思えない家に全員言葉がでない。


「…何だよ、いきなり静かになりやがって。」


エレベーターが目的の階についた音を響かせる。
怪訝な顔をしている土方さんについていくしかできなかった私達だったが永倉さんが口を開いた。


「いやいやなるだろ!なんでこんなすげえとこ住んでんだよ!!」

「すっげー!超広い!!」


玄関のドアが開くと平助が一番に飛び込んだ。
土方さんが制止したが聞くはずもない。


「良い所に住んでるんだなあ…。」

「親がマンション買ったんだが海外勤務になっちまってな。」


それでこんな広い所で一人暮らし。
でも広すぎると何だか落ち着かなくなったりしないのかな?
私だったら寂しくなりそう。


食材をドサドサとキッチンにおろす土方さん。
千鶴と私もキッチンについていき、すぐに鍋の準備をすることにした。


「俺も手伝う。必要なもの言ってくれ。」

「ありがとうございます!」

「じゃあ私はお野菜切りますね。」

「じゃあ私は他の具材を…。土方さんお鍋とスープの準備お願いしても良いですか?」

「ああ…。」


――ガシャン!!!バタン!!!


リビングの方から大きな音がする。
何か倒したか、壊したか…どっちにしろ絶対に良くない音。


「…ここはまかせた。」

「「…いってらっしゃいませ。」」


こめかみをぴくぴくさせながら土方さんがリビングへ去っていった。
その後。
思い切り怒鳴られ、しめあげられた永倉さんと平助がしばらくリビングに転がっていたとかいないとか。





二種類の鍋を準備し、飲み物を全員が持ったところで復活した永倉さんが乾杯と叫んだ。






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