「おーい、みんな!週末に鍋パしようぜ!」
剣道部の活動が終わり、帰り支度をしている時に永倉さんが皆に向かって手を挙げながら叫んだ。
「鍋パって…どこでやるんだよ、新八っつぁん。」
「ああ。けっこうな人数になるだろ。」
平助と原田さんが呆れ顔で返事をした。
確かに、ここにいるメンバーだけでも八人になる。一人暮らしの家ではぎゅうぎゅうだ。
「そりゃ、広い家と言えば土方さんのとこだろ。」
「はあ!?」
永倉さんの提案を聞き流していた土方さんがその言葉に反応する。
「何で俺の家なんだよ!言いだしっぺの家でやるのが普通だろうが!」
「だって近藤さんがトシの家は一人暮らしのわりに広いからな、みんな余裕で入れるだろう。って言ってたから…。」
「あの人は…!!」
近藤さんはもうすでに帰っていた為、土方さんはやり場のない怒りを無理に押し込めているようだった。
「へえ…それは楽しそうですね。僕もみんなと鍋したいなあ。」
「総司、てめえは鍋を楽しむだけじゃすまねえだろうが。」
うん。
私もそう思います。
絶対荒らされますよ、土方さんご愁傷様です。
「土方さんのご迷惑になる。こんな大人数で押し掛けるようなことは…。」
「一君。せっかくの鍋だし、美味しいお豆腐買ってこようね。」
「…湯豆腐もいいな。」
「斎藤!」
最後の砦がいとも簡単に崩落したのを見て土方さんが愕然とした。
いや、土方さんだけじゃなくて私もびっくりしたけれど…。単純だね、一君。
それにしても爽やかな笑顔で一君を懐柔した我が恋人に感心してしまう。
…良い意味ではない。
「ま、というわけでさ。いいじゃん土方さん!準備も片付けもちゃんと皆でするからよ!」
「一番当てにならない奴が言うんじゃねえ!!」
「その通りだな。」
とはいえ楽しそうに話を進めるメンバーに土方さんも最後の方は諦めたらしい。
土曜日の夕方にみんなで買い出しをし、その後土方さんの家で鍋パーティをすることになった。
「何鍋にする!?俺キムチ鍋食いたい!」
「普通のよせ鍋とかもいいが…千鶴、お前は何が良い?」
「え!?えっと…豆乳鍋食べたいです。」
「賛成だ。」
「一君、何か張り切ってねえ?」
「人数も人数だし、二種類ぐらい作ろうぜ!キムチと豆乳でいいじゃねえか。」
「おい、家主の意見も聞けよ。」
まだ部室にいるため外を気にせず騒ぐみんなに思わず頬がゆるむ。
なんか…いいよね。
こういう雰囲気好きだな。
「美月は何が食べたい?」
「え?」
突然隣にいた総司に声をかけられ、思わずビクッと体が揺れる。
そんな私を見てクスクスと笑いながら総司が続けた。
「何驚いてるの。美月も参加するんでしょ?食べたいもの言わないと決まっちゃうよ。」
「あ…私は豆乳鍋もキムチ鍋も好きだから大丈夫。」
「そう?どうせ土方さんや新八さんが多く払うだろうか高い具材買っちゃおうね。」
本当に爽やかに笑ってそう言うもんだからつい頷いてしまう。
こんなことではいつかいたずらに加担させられるぞ私。
「まあそれに…。」
「ん?」
「違うやつが食べたかったら今度二人で食べればいいよね。」
耳元に小さくおりてくる言葉。
二人だけの秘密な感じがして嬉しい。
「そうだね。」
「ね。」
「おーい、お二人さん、聞いてるか?」
「え!?」
永倉さんが私たち二人に向かって叫んでいた。
そんなに離れてないのに全然聞いてなかった!
ごめんなさい、永倉さん。
総司に夢中です。
「何?新八さん。」
「だから、当日はみんなお菓子持ってこいよって話。」
「お菓子?」
「バレンタイン用のお菓子だって。」
「は?美月や千鶴ちゃんならともかく、どうしてみんななんですか。」
確かに。
私と千鶴からっていうのはわかるけど他のみんなは貰う側だよね。
「そりゃ貰えないのは寂しいからだ!何かゲームでもして勝ち取る方式にするぜ。二人のチョコをかけて戦う方が楽しいだろ?」
「ってか男から貰うぐらいならいらないって…。」
「本当だよな。」
「いいじゃねえか!友チョコだ!友チョコ!」
がはははと大きな声で笑う永倉さんにみんな呆れ顔。
土曜日はバレンタイン。
部のみんなにも何か作っていこうと思っていたんだけどそれを聞いた総司が
「千鶴ちゃんにはいいけど、他の人にはだめ。」
って言うもんだからさ。
何それ!
可愛い!!!!!ヤキモチ!?!?
って声を大にして叫びたかったけど、そんなこと言うと後が怖いから心の中に止めておいた。
千鶴ちゃんと二人からという形にするならいいよって…それでも少し口を尖らせていた総司。
ああ、あの可愛さ、誰かに伝えたい!教えたい!わかりあいたい!!!
あ、話がずれた。
と、いうことで部のみんなには千鶴ちゃんと何か適当に買おうってなってたもんだから、永倉さんの発言に戸惑ってしまう。
いくら総司には別で手作りを持っていくとしても、誰かには私が持っていくチョコが渡ってしまうわけだ。
千鶴ちゃんならいいけどそれ以外だと総司、良い顔しないよね。
…まあそれはそれでヤキモチ妬いてもらえて嬉しいんですけど。
ちらりと総司を見るとやっぱり少し不機嫌そうだった。
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