「総司!総司待ってよ!早い!」

「っ…ごめん!」

急に止まった総司の背中に小走りだった私が衝突する。
総司と私じゃ足の長さが違うんだからゆっくり歩いてもらわないと…。


「あの…怒ってる?」

「何で?」

「いや…なんとなく。」

「まあ。怒っているというか、自分に怒ってる。」

「え?何で?」


総司は私の手をひいたまま、ゆっくり歩く。
その表情は何故か複雑そうで。


「やっぱり行かせなければ良かったって思って。」

「し…仕方ないよ!まさか総司も私が誰かに告白されるなんて思わなかったでしょ?」

「いや。美月は可愛いから誰かに告白されてもおかしくない。」



………。


……。


えええええーーー!!!!
真顔でなんてこと言うの!?この人!
本当に総司!?





「いやいやいや。ないよ。総司、彼氏だから変なフィルターが目にかかってるだけで…。」

「あのね、僕の彼女が可愛くないわけないじゃない。」


なんだその自信はー!!!
もうやめて。
恥ずかしいからやめて。


「良い子だし、しっかりしてるようでぬけてるし、他の人が気にならないわけがな…。」

「もう勘弁してください、総司さん。」

「何で。」


こっちの心臓が変な事になるからです。
拗ねないでよ。可愛いよ、顔が。


「あの人の言うとおり。美月のことは信頼してるけど、合コンに行かせるなんておかしかった。」

「でも連絡をとるとかしないから。私が好きなのは総司だもん。」

「…そういうの、ほんと反則。」

「え?」


ぎゅーっと総司が抱きしめてくれる。
いくら夜で人がいないからって外は恥ずかしいんだけどな…。


「美月はさ。僕が最初の恋人でしょ?」

「え?うん。」

「…ふと思ったんだよね。美月は僕だけでいいのかなって。」

「は??」

「いろんな人と付き合って、いろんな経験して。そういうのも大事じゃない?このまま僕だけと付き合って結婚したら、美月は僕だけしかしらないわけで。僕としてはものすごく嬉しいことだけどそれって本当にいいのかなって思っちゃって。」

「あのー…。」

「だけど今更美月が他の人と付き合うなんて僕には耐えられないし。美月を離してあげることなんてできないから、せめて合コンぐらい経験させてあげようかなって思ったんだけど。間違ってた。やっぱり間違ってた。」

「もしもーし。」

「他の参加してた人達も美月のこと好きになってたらどうしよう。しばらく一人っきりにならないでね。絶対誰かと行動し…。」

「総司!」


大きな声をだした私に総司はきょとんとする。



「わ…私が好きなのは総司だけって言ったじゃん!合コンもそもそも興味ないし、他の人と付き合ったら…なんて考えたこともないよ!」

「美月…。」

「私は他の人なんかより、総司のことをもっと知りたい。これからいろんなことを総司と経験していきたいよ。だから…そんなこと考えなくていいから。」

「うん…。ごめん。」

「もう。びっくりするじゃん。」

「あはは。ごめんって。そうだね、僕がいろんな経験させてあげる。」


総司はすっかりいつもの表情に戻っていて。
私は安心して笑った。


「さて、じゃあ早速素敵な経験する?」

「え?」



気が付いたら総司の家の前。
ぐいぐいと引っ張られ玄関のドアに辿り着いたかと思うと総司が素早く鍵を開けた。



「総司?」

「ん?」

「素敵な経験って何かあるの?」


ドアを開けて総司が私を先に入れた。
バタンとドアが閉まり施錠する音が響く。


「そうだなあ…じゃあ、まずは一緒にお風呂でも入る?」

「ああ、おふろ…ってお風呂!?」

「お湯ためてくるから部屋行っててよ。ついでになんか飲み物作って〜。」

「ちょちょちょっと!待って!」


慌てふためく私を置いて総司はお風呂場に歩いていった。
一人玄関に取り残された私が。




こっそり逃亡したのはいうまでもない。







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