「みんなに言わないでいいの?」
「大丈夫だよ。どうせ騒ぎすぎてカウントダウンなんて忘れてるから。」
「え!?もうそんな時間!?」
「あと十分。」
店の外へ出て二人並んで歩く。
お酒が入っているせいかあまり寒さは感じなかった。
どうやら総司は近くの公園に向かっているらしい。
「あの公園、除夜の鐘が聞こえるんだよ。」
「もう、少し聞こえるね。」
公園につくと自動販売機であったかいお茶を買う。二人でベンチに座って空を眺めた。
「今年はいろいろあったな…。」
「まあ毎日お祭り騒ぎみたいなもんだよね、みんなでいると。」
「うん。だけど…総司と付き合うことができたから、今年一年は何もかも新鮮に感じたよ。」
「美月…。」
「お花見も、海も、講義も実験も、学祭も…去年とは全部違ったの。初めてみたいにドキドキして楽しかった!」
好きな人と一緒に過ごせるってことが。
こんなに素敵で幸せなことなんて。
知らなかったから。
「大好き。ありがとう、総司。」
少し恥ずかしくて、照れながら言うと総司がぎゅっと抱きしめてくれた。
顔が見えないけど耳元に声が落ちてくる。
「お礼を言いたいのはこっちだよ。」
好きの意味を教えてくれて、ありがとう。
一緒にいてくれて、ありがとう。
好きでいさせてくれて、ありがとう。
好きをくれて、ありがとう。
総司からそんな言葉がくるとは思わなくて。
また泣きそうになって。
すっと離れた総司が笑って「泣くのは禁止」って言うから。
我慢して絶対変な顔になってるんだ。
「ふっ…変な顔だよ。」
「わかってる…。」
「好きだよ。」
「私も…好き。」
そして私たちは、今年最後のキスをした。
ボーンと最後の鐘の音が。
新しい年がきたことを教えてくれて。
私たちは今年最初のキスをする。
「今年もよろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
二人でおでこが触れるぐらいの距離で笑う。
「さて、そろそろ戻ろうか?」
「うん。」
「美月を連れ出したのがばれたらまた怒られるからね、あの人達。特に土方さんと一君と平助君。」
「怒るの?何で?」
「…にぶっ。」
「え?何か言った?」
「ううん、さっき美月にキスしたから怒ってるんだよ。」
「き…す…。」
総司に言われて一気に記憶がよみがえった。
そうだ。
私口移しで水を…。
「大丈夫?美月、顔がタコみたいだよ。」
「だだだだって!私どんな顔してみんなの前に行けば…!」
「美月はされただけだから大丈夫だよ。被害者扱いだから。」
「被害者…。」
「せっかくだし、もう一度みんなの前でキスしようか?それで堂々と交際宣言してもいいね。」
「ええ!?」
「そろそろ面倒だしみんなに言うのもありかな。うん、そうしようか?」
「ちょっと待って!」
一人で話を進める総司を何とか止め、私たちはみんなの所へ戻った。
どうやら私たちが抜け出したことに気が付いていなかったようで、年が明けてることを告げるとみんな驚いていた。だけどすぐに新年だーと騒ぎだしていたけれど。
「ほら、誰も気づいてないでしょ。」
「うん。確かに…。」
「まあ、おかげで二人でカウントダウンできたけれどね。」
「えへへ、そうだね。」
「今年も楽しいこと、たくさんありそうだね。」
「総司と一緒なら毎日楽しいよ。」
「…そんなこと言うとキスするよ。」
「ええ!?」
今年も、ううん、これからもずっと。
こうして二人で時を重ねられますように。
終
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