開店してからは大忙しで。
次から次へとお客さんが来て目が回りそうだった。
どこから情報を聞きつけたのか、イケメン執事がたくさんいると言って近くの高校から女子高生までたくさん押し寄せていた。
「すごいね…。」
「うん…。」
思わず千鶴と呟いてしまった。
土方さんや原田さんが特に人気だけど、一君や平助、山崎君に永倉さんまで女の子にずっと囲まれている。
ちらりと総司の方を見るとお姉さんたちに囲まれていた。どうやら他の学部の先輩みたい。
爽やかな笑顔で対応していて彼女たちのハートを鷲掴みしているようだ。
「いらっしゃいませー。」
千鶴の声を合図に視線を前に戻す。
すると社会人かな?男の人が二人立っていた。
「イチゴジュースとミックスジュースください。」
「あ、はい。」
「俺達ここの卒業生なんだ。」
「そうなんですか?」
千鶴が会話をしながらジュースを準備する。
私も一緒に準備をして男の人に渡した。
「俺達の時にはこんなに可愛い子いなかったなあ。」
「そうだよな。あ、ねえねえ、もしよかったらご飯食べに行かない?もちろん学祭終わったら。」
「好きな物奢るよ。連絡先教えてくれない?」
「え…あの…。」
「すみません、そういうのは…。」
「まあまあそう言わないで。ちょっとご飯食べ行くぐらいいいでしょ?」
「じゃあこれ、俺の連絡先ね。」
男の人が紙にさらさらと電話番号を書いて千鶴と私に押しつけるように渡してきた。
「あ、じゃあ俺も…。」
もう一人の人がメモ用紙に数字を書いて私達に渡そうとした時。
「困ります。お客様。」
「うちのメイドさんに手出されちゃ。」
私達の背後から聞きなれた声がした。
振り向くと総司と土方さんが立っている。
…恐ろしい笑顔で。
「え…っと。」
「仕事中なのでそういうのはご遠慮ください。」
土方さん。
堅気の目じゃないんですけど。
完全にどっかの組の人っぽいんですけど。
「飲み物受け取ったら移動してください。他のお客様の迷惑になるので。」
総司。
丁寧なのは口調だけなんだけど。
強制的に男の人を引っ張って列から外したし。
「なんだよ…こいつら。」
男の人達はそそくさと人ごみに消えてしまった。
そりゃそうだよ、関わりたくないよねあんな怖い顔した人達。
「ったく、はっきり断らねえからしつこいんだ、ああいう奴らは。」
「すみません…。」
「千鶴は悪くないよ。」
「君も。」
「え?いっ…いひゃいいひゃい!」
総司に思い切りほっぺたを摘まれ伸ばされる。
「どうしてはっきりきっぱり断ってやらないかな?なんならジュースぶっかけてやればよかったじゃない。」
「できるか!そんなこと!」
「それともご飯食べに行きたかったの?あの人達と。」
「んなわけないでしょ!それに…。」
自分だってお姉さん達と楽しそうにしてたじゃん。という言葉を飲みこんだ。
言ったところで何にもならない。
だけど総司には伝わってしまったのか。
ニッと笑うと耳元で小さく話した。
「もしかしてヤキモチ妬いてくれた?」
「や…やかない!」
「面倒だけど売れたほうがはやく終わるじゃない。そうしたらさ。」
――ゆっくり二人で過ごそう?
笑顔でそんなこと言われたら。
すぐに機嫌なんて治っちゃうんだ。
ずるいよ、総司。
「お、もう試験終わったみたいだぜ!」
永倉さんの声で視線を横にずらすと一年生達と近藤さんがこっちに笑顔で合図を送っていた。
どうやら永倉さん、平助達の研究室の試験は無事終了したようだ。
「ってことは…あとはこっちを全部売っちまえば終わりだな。」
「この分だと二時間もかからないだろう、美月、雪村、もう少し頑張ろう。」
「うん!」
「はい!」
「おーい、こっちにポタージュ二つ!」
「こちらにオレンジジュースを三つお願いします。」
平助と山崎君のオーダーに私と千鶴はお互い目を合わせて頷くとすぐに作業にとりかかった。
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