少しずつ秋が近付いてくるのを感じた。
朝晩はだいぶ涼しくなってきたし、日が落ちるのも早くなった。
そして…。
そろそろあの日がやってくる。
講義を終え、ふらふらとキャンパス内を歩いていると後ろから呼びかけられた。
「お!美月〜〜!官能試験手伝ってくれない??」
つなぎ姿の平助がぶんぶんと手を振っているのが見えた。
足元には大量の作物が入ったかごがある。ここから見える限りで林檎、柿といった果物に芋やら豆やら野菜まで盛り沢山。
「いいよ。もう今日は講義ないし。だけど…これ全部じゃないよね?」
全部食べるなんて無理だよ、絶対。
「好きなの選んでくれよ。どうせどれもやらなきゃいけないし…。」
ため息混じりに平助が呟いた。
疲れてるんだな〜。多分。
官能試験って大変だもんね。
「じゃあ林檎にしようかな。平助の研究室行けばいいの??」
平助達のコースはもう秋から研究室に配属されてる。平助は永倉さんと同じ研究室なんだよね。
「よっしゃ、じゃあ行こうぜ!」
重そうなかごを軽々と持ち上げた平助についていき、私は彼らの研究室に向かった。
自分のコースと違う棟に入ることなんてなかなかないから少しわくわくする。
「お疲れ様でーす。」
平助が扉を開けると何人か先輩がいた。
見たことない人達ばかりだけどそれぞれ実験をしたり、レポートを書いているところらしい。
「お邪魔します。」
平助の後ろからゆっくり入っていくと先輩達は明らかに驚いた顔をした。
そりゃそうだよね、知らない人がいきなり入ってきたんだもん。
「いきなりすみません。あの、官能試験をしに来ました。」
「手伝ってもらおうと思って。いいっすよね??」
「あれ?美月ちゃんじゃねーか。」
いきなり後ろから声がした。
振り向くまでもなく永倉さんだということはわかったのだがゆっくり振り向いて挨拶をする。
「官能試験しにきました。」
「お、すまねえな。おい、お前ら椅子あけろよ。女の子きたんだから。」
「どどどうぞ。」
「ごゆっくりー。」
なんだかよそよそしいんだけど何でだろ。
「…ここの先輩達、あまり女の子に慣れてないんだよ。」
小さい声で平助が耳打ちした。
ああ、確かにそんな感じだ。
理系男子によくあるやつだね。
先輩達があけてくれたスペースに私達は座ると早速試験を開始する。
平助がせっせと林檎を剥いて私が少しずついろんな林檎を食べる。
肥料を変える、育てる場所を変える、日数を変えるなどの違いで味にだいぶ違いがでるもので。
「こっちは…甘い。こっちは爽やか…これは…。」
紙に書かれている項目にチェックをつけていくんだけど、いつも思う。
変な項目が多い。
甘い、すっぱいとかはわかるよ。
だけど食べ物でのんびりするとか暗いとか明るいとかわかんないから!
直感で決めろって言われてもね…。
次々と林檎を口にして試験を進める。
終わるころには相当お腹が膨れていた。
「もう限界だよ〜。平助ストップ。」
「林檎はこれで終わり。確かに一気に試験するって難しいよな。どうしたって腹いっぱいになっちまうし。」
頭に手をあてて平助がため息をつく。その様子を見た永倉さんが助け船をだした。
「でも早めに試験しないとだめだろ?剣道部のみんなに手伝ってもらうか?」
「そっか!」
「道場に持っていく?手伝うよ。そろそろ部活じゃない?」
「よっしゃ!行くか!!!」
平助と永倉さんに続いて果物が入ったかごを持ち、三人で道場へ向かった。
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