テスト勉強は今まで何度か経験していた。
それこそ中学生から中間・期末テストというものが存在し始め、高校に至っては学外でも模試と戦う始末。
だから大学に入ったってなんてことないよって思っていたけれど。
「…意味不明、理解不能。」
「全然ペンが動いてないよ、美月。」
目をこっちに向けることもなく、手元の分厚い辞書に視線を落したまま総司が言った。
「だって総司。私日本人なのに日本語がわからないんだもん。」
「じゃあ日本人じゃなかったんじゃない?」
サラサラとペンを動かしている奴が憎らしい。
同じ日本人のはずなのに!
大学生活は思い描いていたよりだいぶ忙しくて。
毎日のようにレポートやら実験やら実習に追われ、それはまだいいんだけどテストまでついてくる。
前期に二回、後期に二回。
まあ中間・期末テストみたいなもんか。
先生によっては教科書持ち込み可なんて仏のようなことを言ってくれる人もいるけど、大半は悪魔だから。悪魔。
――はい、じゃあここからここまで範囲ね。
とかね。さらっと言うけどね。
私の目が腐ってなければ範囲が軽く百ページを超えてるんですけどって話なんですよね。
しかもこれでもかってぐらい難しい日本語で書かれた文章。
「性格悪い。いじめ格好悪い。」
思い切り机に突っ伏して呟いてやった。
「小さい声で話しなよ。」
「いいの。気にしないもん。」
図書館だけど気にするもんか。
隅っこで人いないし。
「ほらほら、はやくやらないと徹夜になるよ。」
なんで総司はそんなに余裕なの。
どうにか過去問は手に入れたし(原田さんありがとうございます。)一度過去問を解いておけば単位はとれると言われているテストだけど。
とにかく難しい。
去年の平均点が二十点だって。
…百点満点で。
私もさっきから五回は問題を読んでいるんだけどね。
まず問題文が理解できないの。
解く以前の話なの。
「総司はわかるの?この問題。」
「まあ。この講義嫌いじゃないし。」
でしょうね。
だって総司は今違う講義のテスト勉強してるもん。それはそれは分厚い化学事典片手に英文読んでるし。
…それ、私も後でやらなきゃいけなんですよね?追いつけません。
普通さ。
どこがわからないの?って優しくて甘い言葉を彼女にかけてくれてもいいんじゃないかなあ?
そりゃ昔よりだいぶ甘々になったと思うけどこういうところやっぱり意地悪だ。
絶対私の助けを求める視線に気づいているのに!
心の中でにやりとしてるぞ、あれ。
こうなったら。
「あ、そうだ。原田さんに聞けばいいんだ。」
ぴくりと総司が動いた。
「原田さんこの講義の教授の研究室だし。きっと詳しく教えてくれるよね。じゃ、私ちょっと行ってくる。」
そう言って立ち上がった。
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