ぐいっと突然後ろにひっぱられる。
「わっ!」
持っていたお菓子を落としそうになりながら私は後ろを振り向いた。
どうやらしっぽを引っ張られたらしい。
「えっと。」
黒いしっぽを楽しそうにひっぱる男の子が一人。
「お姉ちゃん黒猫なの?」
「そうだよ。」
「僕んちの猫、黒猫なんだ!」
「そうなの?」
自分の家の猫を思い出したのか、嬉しそうに笑うと私のしっぽを離す。
「僕んちの猫が人間になったら、お姉ちゃんみたいな感じなのかなー。」
「どうだろうね。女の子なの?」
「うん!」
にこにこ楽しそうに自分の家の猫について話すのがとても可愛かった。
携帯電話に入っていた写真まで見せてくれる。
「可愛い猫だね。」
「でしょ!僕猫大好きなんだ。」
「優しくしてあげてね。」
「うん!あ、お姉ちゃんこれあげる。」
そう言って彼がくれたのは飴。
用意していたお菓子の中にはなかったからおそらく彼が持ってきたものだろう。
「ありがとう!君もいっぱいお菓子食べていってね。」
「うん!」
そう言うと彼は友達のところへ戻っていった。
弟がいたらあんな感じなのかなーとか思いつつ眺めているとふいに後ろから声をかけられる。
「美月。」
「はい?」
「思ったより菓子の減りが早い。入口の横の空き部屋にまだ置いてあるはずだから持ってきてくれるか?」
「わかりました!」
土方さんに言われ、入口の方へ向かい空き部屋に入った。
空き部屋と言うより物置と言った方が正しそうだ。
椅子や机、棚の他に大きな太鼓やボールなどいろんなものが置いてある。
「お菓子お菓子…。」
隅っこにスーパーの袋に大量に詰め込まれたお菓子が目に入った。
「あった〜。じゃあこれを持っていってと。」
お菓子を持ち、部屋を出ようと振り向いた時だった。
「きゃっ!」
目の前に影があった。
と、思った時にはもう遅くて勢いよくぶつかる。
――バサッ
お菓子が床に散らばり、私は好きな香りに包まれた。
「総司?」
「やっと二人になれた。」
ぎゅっと音がしそうなぐらい強く抱きしめられると段々恥ずかしくなってきて私は総司の肩をばしばし叩く。
「な…何してるの!早くお菓子持っていかないと…。」
「いいじゃない。少しぐらい。全然話せてないんだよ?」
そんな口尖らせないでよ!
耳がついてるせいで可愛いんだってば!
もうシュンとした犬にしか見えないんだもん。
「だけど…。」
「美月可愛いね。黒猫。」
「え?」
総司がゆっくりと頭の上につけている耳に触れる。別に自分が触られているわけじゃないのに髪に触れるせいかくすぐったい。
「だけど足だす必要あるのかなあ。これ誰の趣味?」
「さあ…。それはわかんないけど。」
「こんな可愛い格好。誰にも見せたくないのに。」
「総司。もうすぐ終わるんだし、もどろ?」
手を伸ばして総司の頭を撫でる。
ふわふわした髪に獣耳。
本当に犬を撫でているみたいな気分になる。
「やだ。」
「ほら、我儘言わないの。」
「トリックオアトリート?」
「…え?」
相変わらず私の体を離さないまま、総司が意地悪そうに聞いてきた。
えーと。
トリック=いたずら
トリート=お菓子
ですよね?
床にちらばっているお菓子に手は届かない。
必死にポケットを探るとさっきの男の子にもらった飴が手に触れた。
「はい、お菓子。ハッピーハロウィン。」
私は飴玉を総司に差し出した。
すると意地悪そうに笑っていた総司が一瞬きょとんとした顔になる。
多分私がお菓子持ってるって思わなかったんだね。
「………。」
総司は私が差し出した飴玉を受け取ると冷めた目でそれを見つめ。
投げた。
「ああ!ちょっと!」
「トリックオアトリート???」
再び楽しそうに笑う総司。
「いや!今あげたよね!お菓子あげたじゃん!!!」
「え?なんのこと?知らないな。お菓子ないんじゃイタズラするけど。」
至近距離でそれはそれは楽しそうに言う総司が怖い。
何をするつもりですか!?こんなところで。
何も言えずに口をぱくぱくさせていると総司の手が背中をゆっくりとおりていくのを感じた。
「そそそそそそ!」
「しっぽ、意外といいかも。猫耳も。」
「変態!?」
私のしっぽをいじり、そのままその手が足へ。
なんかまずい!?この雰囲気。
「犬っぽいって言ってたけどさ。」
「え?」
「僕犬じゃなくて狼だよ。可愛い猫ちゃんは…。」
そのまま壁に押さえつけられた。
つ
か
ま
っ
た
?
「食べちゃおうかな。」
最後に見えたのはニヤリと笑った総司の顔だけ。
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