「かんぱーーい!!!」

永倉さんの大きな掛け声を皮切りに宴会が始まった。

今日は剣道部のお花見。
去年は新入生として歓迎されるだけだったけれど、今年はもう二年生。
私はマネージャーとして…。


「マネージャーだけど、マネージャーであってホステスじゃねぇ!飲みたい奴は自分で飲みなさい!!!!!」


美月は新入生たちに叫んだ。


「美月先輩についでもらいたいんですよー。お願いしまっす!」

「あ、俺は雪村先輩がいいです!」

「俺も俺も。」

「何がついでもらいたいですか、あんたらジュースでしょう?」


剣道部は男ばかり。
全く入らないのも困るが今年は一年生が十名程入り、そこそこ大所帯になった。


「あの…はい、どうぞ。」

「千鶴!つがなくていい!」

「でも…。」

「君達、楽しく食べて飲んでけっこう!そのかわり、この子に必要以上に近づかないでくれる?」
 
「「えーーー。」」

一年の不安の声があがる。


「一年!そっちでかたまってねぇで散らばれ!先輩に顔と名前を覚えさせろ。」

少し離れたところから低い声がとんできた。
視線をやると少し顔を赤らめた土方さんの姿が見える。
…飲んでしまったのですか、お酒。

「「はっはい!」」

びしっと全員で返事をして一年生達が土方さん達の方へ走るように向かって行った。

「ふう…鬼副長がいて助かった。」


みんな悪い子ではないのだ。男同士、楽しそうでいいね。


「みんなすごいパワーだね。」


千鶴が目を丸くしてその様子を見ていた。
大人しい千鶴は自分から男の子の所へ行くことはほとんどない。
だから目の前の光景は珍しいんだろう。


「そうだね…この前まで高校生だったんだもん。仕方ないけど。」

「僕たちも一つしか年変わらないんだけど。」

「あ、沖田さん。」

「総司…。」

後ろから声をかけられて振り向くとそこには総司が手に飲み物を持って立っていた。

「千鶴ちゃん、同い年なんだからさん付けやめない?」

「あ…沖田君?」

「そうそう。」

にこにこしてやがる…。
私にはそんな優しく笑わなくない?


実は、私美月と沖田総司はついこの前付き合い始めた。(短編 告白参照)
話合うし、友達としては最高で、いつも一緒にいたらいつの間にか好きになっていたという…

(なんという少女漫画的展開…!)

思わず顔を下にしてしまう。恥ずかしいんだもん。

だけど…そういうの憧れるよね。
実は思いあっていた二人、お互いに気持ちを告げ、両想い。
そこからはラブラブライフが…


「美月、どこの世界にいってるのー帰っておいで。すごい間抜け面。」



ラブラブライフどこいった?




そうです。
人がせっかく漫画みたいな恋に憧れているというのにこの男。
全然変わらないのです。
全く態度が同じです。
ってかむしろ冷たくない?彼女ってこんなもんなの!?

…今まで彼氏いたことないからわからない!


頭を抱えたい気分の私の肩に誰かの手が触れた。


「美月お前ちゃんと食べれてる?」

「あ、平助。…まだ。」

「飲み物も食べ物もなくなっちまうぜ?あ、ほら、焼き鳥。」

「ありがとー!」


平助が焼き鳥片手に隣に座ってきた。
総司の次ぐらいに気が合うんだよね。クラスは違うけれど授業がいくつかかぶっていて一年生の時から仲良し。


「平助、後輩覚えた?」

「あーだいたいな。さっきけっこう話したし。」

「すごいね、私名前覚えられない。」

「お前、それマネージャーとしてだめだろ。」

あははと笑う平助につられて笑う。
黙っていたら平助も一年生みたいな見た目だけどもうすっかり先輩なんだなー…って本人に言ったら怒りそうだけど。
平助が持ってきた焼き鳥を食べているとすっと誰かが隣に座る気配を感じる。
横には新入生の男の子が座っていた。


「美月さん、藤堂さん一緒に飲んでいいですか?」


えっと…たしか、馬越君?


「おう、一緒にのもーぜ。」

平助が笑顔で応対する。
一緒に飲もうも何も未成年はジュースだけどね。

「お二人仲いいんですか?」

「え?あぁ、まぁ。ってかうちの部はだいたいみんな仲がいいよ。」

「そうなんですか!早く俺も打ち解けたいな。」

 
なんか…無邪気な笑顔。
弟いたらこんな感じかな?

「すぐ仲良くなるよ、ね、平助。…あれ?」

気がつくと平助がいない。
遠くを見ると左之さん達と歌いながら踊ってる。みんな何杯飲んだわけ?


「美月さんは彼氏いるんですか?」

「え?なんで?」

「いや、剣道部のマネージャーお二人とも可愛いから、一年みんなで憧れてて。」

「千鶴はともかく、私はないでしょ。」

思わず半眼で彼を見つめる。お世辞がわかりやすいんだもん。
中の中だと思うよ。ほんと。
千鶴は可愛いけど。

「美月さんも可愛いじゃないですか。あ、先輩に可愛いとかって失礼なのかな?」

「一つしか違わないから気にしないで。」

「もし彼氏いなければ俺と…。」




――グイッ




「美月、お酒足りなくなるから一緒に買い出し行ってくれる?」

いつの間にか後ろにいた総司に腕を引っ張られ立たされる。

「え?もうなくなったの?」

「新八さんと左之さんが馬鹿みたいに飲むから。」

「先輩を馬鹿呼ばわりしない!」

「はいはい。ほら、いこ。」

「あ、俺も!」

無理やり引っ張ろうとする総司の姿を見て馬越君も立ち上がる。

「君はいいよ。新入生なんだからのんびり歓迎されてて。」

言っていることは優しいが言葉の温度が冷たかった。

「総司?」

「新入生働かせたらかわいそうでしょ。」

「うん…。」

そうなんだけど。
総司の発言優しかったと思うけど、馬越君の顔がひきつってるのはなんで?
ただ、ふりむいた総司はいつもの総司で引っ張られるようにその場を去った。


(沖田先輩怖っ!!!)


まだ部活も始まる前からすでに沖田に恐怖を感じた新入生であった。




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