―数日後―


「あ、美月ちゃん。」

「どうしたの千鶴。」

「あのね、分生のレポートの件で話があるから研究室にきてくれって。」

「え?レポート?この前の?」

「うん。あと沖田君と平助君と斎藤君にも伝えてほしいって。私用があるからいくね。」


それだけ言うと千鶴はパタパタと走り去ってしまった。急ぎの用があるのだろう。


「なんだろ。とりあえず。」



携帯を取り出し電話をかけた。
総司と平助、一君はすぐにでて、研究室で待ち合わせすることになった。



研究棟は三、四年生がメインだから二年生の私達が行くことはあまりないんだけど。
白衣姿の人がたくさんうろうろしている。
来年は私もこの中の一人になるんだなとか考えながら分生の研究室に向かった。



どうやら一番乗りだったらしい。
三人が来ている気配はなく、私はおそるおそるドアをノックした。


「失礼しまーす。」

「入れ。」


中から低い声が響いてきた。



なんか偉そうな口調だな。
分生の先生ってこんな声だった?



ドアを開けて入ると、眼鏡の温和そうな頭の薄い教授、ではなく。




キラキラ輝く金髪の綺麗な顔立ちの男の人が立っていた。
ハーフ??



「貴様は?」

「え?き、貴様?…美月です。岩崎美月です。」

「ほう呼び出しを受けた一人か。」

「はい。」



なんだろう、この人。
言葉遣いがめちゃくちゃ偉そうなんだけど。
ただ、それを自然とつかっている感じがする。


「俺は風間だ。この研究室で…。」

「(院生かぁ)先輩ですか。お疲れ様です。」



風間先輩の言葉を遮るようにして話してしまった。機嫌悪そう。


院生といえば剣道部関係の近藤さんや山南さんしか知らないけど。
そういえば風間さんって名前だけ聞いたことあるかも。
ものすごいかっこいいけどものすごい偉そうって有名じゃなかった?この人か。



「で、先輩、なんの用でしょう?」



私この研究室希望してないし。
分子生物学は好きだけど引き抜かれるほどの頭もないし。


「貴様、レポートをうつしたな。」

「は?」

「呼び出した四人のレポートの内容が酷似している。誰か一人のをうつしたとしか思えん。」


内容が酷似しているって。
同じ問題なんだから答えは同じになるし。
調べるツールが教科書か図書館の専門書かネットしかないから仕方ないじゃん!


確かに四人でレポートしてたけどさ。


「貴様ら四人はいつもそろってレポートをしているようだしな。」


見てたようなこと言わないでくださいよ。



私の文句や意見を目から感じ取ったのか、風間さんはふっと笑うと私に近くの椅子に座るよう目で訴えた。


「レポートなんてみんな似ちゃいますよ。さすがに私も人のをうつしたりはしません。」

「では貴様のレポートを他の者がうつしたということか?」

「平助はともかく、一君は私より頭いいし、総司だってそんなずるいことはしません。」



あ、さりげなく平助を捨ててしまった。
ごめん、平助。


「私達そんなことしてませんから!」

「ほう。」


風間先輩は珍しいものを見たかのような顔をして相変わらず偉そうに座っている。


「な、なんですか。」

「貴様、威勢がいいな。美月だったか?」

「そうですけど。」


くそ。
金髪なうえに綺麗な顔だからちょっと怖い。
だけど負けるわけにいくか!!


「私達、本当にちゃんとレポートしてますから。では、失礼します!!!!!」


思い切り椅子から立ち上がり、部屋を出て行こうとした。


ところで



腕を掴まれていることに気がつく。



「ちょっと、風間先輩!?」

「今付き合っている男はいるか?」

「は?」

「男はいるかときいている。」

「なっ!?」



なんでそんなこと聞いてくるんだ!
この金髪ヤンキー!


「かっ関係ないでしょ!!!」

「その様子だとまだ男を知らないようだな。」

「なっ!?」


何言ってくれてんだこのセクハラ金髪!
先輩だと思って大人しくしとけば。



剣道部のマネージャーなめんなよ!



―パチーン!!!



とりあえず思い切り平手打ちを喰らわせてやった。

その顔に見事な紅葉を咲かせるがいい!



「くくっ。女に殴られたのは初めてだ。」



なんで笑ってるんだー!!!!!

もうやだ。

誰か早く来て。



「おもしろい女だ。俺の女にしてやる。」


うーえーかーらーかざーま!!!


サディスティックな奴は一人で十分なんですよ!
もううちには一人いるんです。

なんでこういう時にいないの!?



「けっこうです!!!!!」



振り払いたいのに全然振り払えない。
一瞬でいいから男並みの力ふってこい!





―ガチャッ






ドアが開いた。



あぁ、助かった。





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