こんな大学生活、誰が想像できただろう。


だってドラマの中のキャンパスライフって、広い校舎、綺麗な教室、購買も食堂もたくさんあって。
放課後はサークル活動したり、バイトしたり。
お洒落なお店にご飯食べに行ったり。

そしてイケメンと恋に落ちるわけで。




でも現実は。

校舎はそんなに広くないし。
教室もなかなか年季入ってるし。研究室とかは綺麗だけど。
食堂少ないし、購買も小さい。
サークルに不満はないけどさ。

近くにお洒落なお店ないよ!こんな田舎!


しかもそんな優雅にいられないよ。
実験・レポート・授業・実験・レポートって。
なにこの地獄の輪廻。




イケメンと恋…は。


まぁ、叶ったとする。



「美月、さっきから全然手が動いてないけど?」

「う。」


横にいるのは私の彼氏でありまして。
沖田総司と言えばこの学部では少し有名。見た目いいからね、中身はおいといて。
どがつくSでどっか冷めた感じがするんだけど。
実は最近甘いんですよ。この人。ふふっ。


「そうは言うけどさー。こんなにたくさんレポートあったら手も止まるよな。」


最近の甘い総司を思い出してにやつきそうになった私を現実にさっと引き戻してくれたのは平助だった。


「そうだよ。実験のレポートでしょ?食品衛生のレポートでしょ?分子生物学も…先生達鬼にしか見えない。」

「期日ギリギリまで手をつけないから悪いのだ。早めにとりかかれば終わる。」

「一君。それができてたらぼやかないってーの。」


学校のコンピュータールームに私と総司、平助と一君はいた。
平助や一君とはクラスが違うけれど共通する授業の課題はこうして一緒にすることが多い。

「ほら、あと一時間で部活始まるよ。それまでに終わらせないと土方さんの雷が落ちると思うなぁ。先生達よりよっぽど鬼だよ。」


平助の顔が青ざめる。
一君は余裕なのだろう、全く表情が変わらない。


「終わった。」

「うっそ!」

「まじかよ!?一君!」

「そもそも俺は植物学と植物病理学のレポートしかない。分生のレポートは提出済みだ。」

「えぇ…畜産は?」

「提出済みだ。」

「はーーーじーーめーーくーーん!」


平助が立ち去ろうとする一君の腕にしがみつく。それはもう半泣きで。


「待って待って。病理だけでもいいから助けてーーー!」

「平助、自分でやらねば力にならない。」

「一君!私も分生…。」

「あんたもか、美月。」


私と平助に挟まれるようにして座っていた一君は観念したのかもう一度席に座ってくれた。

「何でそんなに困っている。今回そんなに難しい内容はなかったはずだが。授業を聞いていれば。」


う。一君、わざとなの?
最後の言葉が心をえぐってくるんだけど。


「この反応がよくわからないです。」

「寝ていたのか。」

「ごめんなさい!」

「全く。これは…。」


わぁ。
一君先生になれるよ。
教え方がわかりやすい。
先生が言うと呪文にしか聞こえないのに一君が言うとわかる。


「すごい!よくわかった。これでレポート書ける!」

「そ、そうか。」


あれ?
一君顔が赤い。
あ、気が付いたらめちゃめちゃ顔が近い。
夢中になりすぎて気付かなかった。



――グイッ


一君の方を見ていたら急に襟をつかまれる。そして一気に横へ引っ張られた。



「ちょ!何すんの、総司!」

「別に。美月が一君一人占めしちゃうと平助君が困るんじゃない?」

「あ。ごめん平助。」

「へ?いや、別に俺は。」

「・・・・・。」


一君は何か言いたげにしていたが平助の方を向き、一緒に教科書とにらめっこし始めた。



私も一君に教えてもらったことを忘れる前に書いてしまおうと目の前のパソコンに集中し始める。
一度スムーズに進むと一気にいくもので、なんとか一つレポートを書きあげた。
実験レポートは結果と考察だけだから悩むほどのこともなく終了した。



なんとか全員レポートを提出し、部活に間に合うことができた。



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