沖「はぁ…はぁ。何してるの?」


息をきらせてビニールハウスに入ってきたのは総司だった。
目が鋭い。


(怒ってる?)

「千鶴ちゃんに聞いたら二人で農場の方行ったって言うから。電話でないし。」

「え?あ、ごめん!」

「もしかして、お邪魔?僕。」

「いや、そんなことはない。」

「ふーん。なんか…いい雰囲気だったのかなって。」

「何言ってるの、総司。私一君の手伝いにきたんだよ!!」

「手伝い?」(どう手伝うつもりなの。一君の恋を応援するってことは、自分と付き合うことになるってわかってないよね、絶対。)

「あぁ。総司、あんたにも手伝ってほしい。」

「・・。」



まだ視線は冷たいまま。
だけど一君はそんな視線はおかまいなしに自分のバッグから何かを取り出した。



「山南さんから良い肥料をいただいた。これでうまく育つはずだ。」

「「は?」」


今聞き間違えていなければ肥料って言った?
そしてそれが間違いでないということは一君の手に握られた薬品を見ればわかる。



「では美月、あんたはこっちのトマトを。総司、あんたはあっちのキュウリに…。」



てきぱきと指示をとばし、作業を始めようとする一君の肩に手を置いて問いただす。


「ちょ!ちょっと待って!一君。手伝いって作業??」

「そうだが・・。」

「一君、恋愛で悩んでいたんじゃないの?」

「俺が?何故?」

「だって平助が…。」



私と総司は平助から聞いた話を一君に伝えた。



「愛情を注げば報われると思っていたのに、なかなか報われないって。」

「あぁ。毎日世話をしているのだがなかなかうまく育たなくてな。…野菜達が。」

「じゃあ昨日ご飯食べに行かなかったのは…。」

「山南さんに相談をしに行ったのだ。良い肥料があるとわけてくれた。」

「「…。」」



つまり。


これは。



完全に。



「平助の馬鹿ー!!!!!」




ビニールハウスに私の声が響いた。





なんともいえない空気を消し去るように。



三人で農作業を開始するのであった。






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