二年生になると授業内容が大きく変わった。
どこの大学もそうなのかはわからないけれど、一般教養の科目はほぼなくなり、専門教科ばかりとなる。


自分で選んだ道だが、全ての授業を望んでいるわけではない。
強制的に必須科目とされているものもあるわけで。


興味が薄いことに比例して眠気も増す。


「sp3混成軌道は一つの2s軌道と三つの…。」


僕の横ですやすやと気持ちよさそうに寝ているのは恋人の美月。
一年の時から友達だったが、つい先日付き合うことになった。

さばさばしていて、ときどき女の子ってことを忘れさせる彼女。
だけど恋愛に関してはてんで免疫がない。
どこでどう育てばそんなに純粋になれるのってぐらいに綺麗に培養された。
少女漫画みたいな恋愛に憧れていて、世の中に浮気とか不倫とか蔓延っていること知らないのかなって思う。
他人の恋には鋭いのに、自分に向けられた恋心には全く、微塵も気がつかないし。

危なっかしいから、そろそろみんなに付き合いだしたこと宣言したくなってきている。

って、なんで僕だけこんなにモヤモヤしなくちゃいけないわけ?


今まで彼女がいたことぐらいある。
でも、彼女が他の誰かと話していても何も思わなかったし、遊びに行ったりしても詮索したことなんてなかった。
信頼…とは違うのかも。放任?
つまりそれだけ本気じゃなかったのかな、今思えば。

あれ、じゃあつまり。
今回は本気ってこと?

自分で考えてて恥ずかしくなってきた。


あ、先生が気付いた。
少し顔をしかめているけれど、そのまま授業は続く。大学なんてそんなものだ。騒ぎさえしなければ何も特に言われない。…先生によるけど。


再び彼女に視線を戻す。
頬杖ついて見つめてみた。

お世辞にもね、可愛いとは言えないよ、美月。その顔。
口半開きだし。
瞼がちゃんと閉じられてて救われたね。


つんとシャーペンで頬をつついてみた。

「ん…。」

少し眉間にしわができた。
でも眠りから覚める気配はない。
でもそのおかげで口が閉じた。

うん、さっきよりまだマシ。


「そ…じ。」

(っ…!?)


彼女が少し笑って小さく言った。
とても小さかったおかげで誰も気づいていないみたい。


不意打ちは卑怯だよ。


あーもう。
なんでそんな…。


変な顔の寝顔も
微笑んだ寝顔も

君ならどんな表情でも

可愛いと。

愛おしいと思ってしまうなんて。


ずるいな。ほんと。



(あとで意地悪しよ。)



今日の授業に関するレポートがでていたことを、提出前日まで内緒にすることを決めた総司だった。




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