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「土方さん…そんなに眉間に皺寄せて、何書いてんだ?」
「ああ?」
急に声をかけられ、つい睨みつけるように声の方を見てしまった。
そこには目を丸くして立っている原田の姿があった。
どうやら巡察の報告をしにきたらしい。
「おいおい相当機嫌悪いな。何かよくない仕事か?」
「…原田か。悪かったな、少し苛々していただけだ。」
「俺だったから良かったけどよ、千鶴だったらびびっちまうぞ。」
笑いながら言う原田に俺は筆を置いて大きくため息をついた。
今更俺が睨みつけたところであいつは怯まねえよ。
「で、それ何なんだ?」
「局中法度以外に総司に守らせてえ規律だよ。」
「は?総司?…また何かやられたのかよ、土方さん。」
「違う。…お前らも時々感じるんじゃねえのか、こういうことを。」
「何々?…必要以上に抱きつかない、喧嘩をするな…って何だこりゃ。土方さん、あんた総司に抱きつかれんのか?」
「ふざけんな!俺じゃねえ!…名前だよ。」
「名前?」
名前というのは屯所の家事を手伝いに来ている女子だ。
年は千鶴と同じぐらいか少し上だったはず。
屯所の飯を作ったり、洗濯を手伝ったり…それだけのはずだったんだが。
「あー…確かに総司はよくちょっかいだしてるからな。」
「と、いうよりあいつらもう…。」
「ああ。できてんな。間違いなく。珍しく総司が執着してるからおもしれえなと思ってたんだが…。」
「ここは新選組だぞ。そういうことはだな、人目を憚るもんで…。」
「土方さーーーん。呼びました?僕と名前ちゃん。」
暢気な声が部屋の外から聞こえてきた。
と、同時に襖が開く。
「あれ?左之さん。左之さんも呼ばれたの?」
「あ…原田さん。お疲れ様です。」
「いや、俺は報告でな…。」
「おい、総司。俺は確かにお前と名前を呼んだが同時に来いとは言ってねえぞ。」
「えー?だって名前ちゃんも呼ばれたって言ってたから。同時でも別に問題ないでしょう?」
「大ありなんだよ。悪いが名前、お前は後から…。」
「あ…はい。」
「いーやーです。名前ちゃんは僕と一緒にいます。ね?」
「え?あ…あのー…。」
一度立ちあがろうとした名前の腕を掴み、総司が無理やり座らせる。
困ったように俺を見る名前を怒るわけにもいかねえ…。
原田が別に一緒でもいいんじゃねえかとか言いだすから総司がその気になっちまったじゃねえか、どうしてくれる。
「で、どうしたんですか?土方さん。」
「これを読め。そして守れ。」
「えー…何々?…何です、これ。」
文に目を通すと、案の定総司が真顔で聞いてくる。
…お前わかって聞いてるだろ。
「何じゃねえ、そのままの意味だ。他の隊士の前で必要以上に名前に接触をするなと言っている。」
「僕が必要以上に名前ちゃんにくっついてるって言うんですか〜?」
「今まさにしてんだろうが!!!」
総司のやつ、わざとだろ。
名前を引っ張ると自分の膝の腕に座らせて後ろから抱きかかえる。
「そ…そう…あ、沖田さん!離してください!」
「どうして?名前ちゃんは僕とこうしているのが嫌なの?」
「え!?いや、そういうことではなく…土方さんのお話をちゃんと聞きましょう。」
「はーい。」
名前の言うことは聞くのかよ。
渋々といった表情だがゆっくりと彼女を解放して俺の方を真っすぐ見る。
名前もほっとため息をついて俺の方を見た。