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「名前ちゃん!帰ろう。」
「私、一とテスト勉強してから帰るから先帰ってて。」
「えーじゃあ僕も残る。」
「いい!残らないでいい!!!」
「だってそうじゃないと一君と名前ちゃん二人きりじゃない。危ないからだめだめ。」
「あぶ…あんたのほうが危ないから!」
キッと睨みつけても当の本人はニコニコとどこ吹く風。
それどころか教室に入り込みわざわざ私の隣の席に座った。
まだ隣の子帰ってなかったのに沖田が席借りても良いかな?なんて爽やかに聞けば大抵の子は顔を赤らめてどうぞってなるんだ。間違ってる。
「せっかく部活休みだからどこかに寄って帰ろうと思ったのにな。」
「テスト前だって言ってるでしょ!勉強する為に部活がないのに何言ってるわけ。」
机に参考書とノートを並べ一の帰りを待つ。早く戻ってきてよ、一。
土方先生に用があるとかで一は職員室に行っていた。
「名前ちゃん、化学苦手なの?」
「別に…。」
「相変わらず冷たいなー。僕一応彼氏なんだけど。」
「ふりなんでしょ?一方的に言われてるだけだし。」
そうだけどさーなんてたいして悩んだ様子もなく笑う沖田にまた苛立ちが募る。
沖田は二ヶ月ほど前に隣のクラスに転校してきた。
見た目がいいもんだから噂は聞いていたけれど特に興味もなかったんだよね。
ある時偶然部活へ向かう私に声をかけてきて剣道部を見学したいなんて言うもんだから嬉しくなって案内したんだけどさ。
小さい時から剣道をしていて、一以外に負けたことなかったのに沖田にはあっさり負けてしまった。いや、それは仕方ない。そこは私の力不足。だけど強い人いないし(一以外)やっぱやーめたとか軽い感じで言って去って行ったのよ!?
こんな屈辱ない!!!
だから私は毎日のようにあいつに勝負をいどんだ。
負けても負けても頑張った。
で、一ヶ月前。私が勝ったら沖田が剣道部に入るって流れになり、負けたら言うことを一つだけ聞くなんてとんでもない試合が始まった。
その試合、一本とることができたけど結果は負け。
あいつは剣道部に入ったんだけど…
『僕と付き合ってくれる?名前ちゃん。』
なんてわけのわからないことを言いだし、しかもとりあえずはふりでいいとか、挙句の果てには好きにさせてみせるとか寒気がするようなこと言ってきた。
「あーあ、今日は一君も一緒に帰るのか。お邪魔虫だなー。」
「どっちが!!!」
付き合ってるんだから一緒に帰るのは当たり前だよねとか言って毎日のように迎えに来る。部活のある日もだ。逃げようとしても何故か追いつかれる。なんなのこいつ。
あの日からこいつにずっと振り回されっぱなしだ。