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「つまりさ。なんとなく気になって、なんとなく目で追ってしまうんだよね。一君。」
「ああ。」
部活が終わり、夕焼けに染まる道を総司と二人で帰っていた。
俺は最近思うことをなんとなく総司に話していたのだが話せば話すほど総司の顔がにやけていくのだ。何故?
「で、笑ってる顔を見るとほっとして、悲しそうな顔をしてると辛いんだよね?」
「ああ。」
俺が言ったことをほぼそのまま繰り返す総司に少しだけ苛立つ。
顔がゆるんでいるからなおさらだ。
それを指摘しようとした瞬間、総司の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「うん。簡単じゃない。それ、好きなんだよ。一君。」
「ああ…………は?」
「だから、好きなんだよ。名前ちゃんのこと。」
思わず間抜けに聞き返してしまう。
総司は最初は控えめだったが我慢できなかったのか吹きだした。
「は?じゃないよ一君。好きなんだよ。名前ちゃんが。おめでとう。初恋なんじゃないの?」
「ちょ、ちょっと待て総司。俺が…あいつのことを好き?」
「うんうん。お赤飯食べよ、一君。ってか今更?ずっと一緒にいたくせに。」
相変わらず腹を抱えて笑っている総司に俺は何も言い返すことができなくなった。
小さい頃から剣道一筋だった。
勉強は特別好きというわけではないが知らないことを知っていくことはおもしろく、自然と成績は学年でもトップになっていた。
友にも恵まれ(総司は別だが)それとなく過ごしてきたつもりだ。
ただ一つ。色恋には興味がなかった。
興味がないというと語弊があるかもしれないが周りの奴らが言うほど女子に目を奪われることも、執着することもなかった。ただそれだけなのだ。
それは高校二年になる今の今までそうだった。
だが最近、そんな俺に異変が起こったらしい。
同じクラスにいる原田名前。中学生の時に隣県から転校してきた。しかも家が近所ということで幼なじみのような関係になったのだ。
特別目立つタイプではないのだが綺麗な黒髪が印象的で、すらりとした体型で背は俺とそんなに変わらないのかもしれない。
最初は転校生ということで何かと気になった。
クラスに馴染めているのか、不安がってはいないか。
今思うともしかしたらその時から俺はあいつのことが気になっていたのかもしれない。
なのに総司に言われるまで自分の気持ちにも気付かず、俺は過ごしてきてしまった。
「はーじめくん。考え込んでるところ悪いんだけどさ、もうすぐ家だよ。」
「!…そうだな。」
「じゃー僕がプレゼントをあげるよ、一君。」
「…何だこれは。」
総司の手には小さな手提げ袋。駅前のCDショップのものだ。
「名前ちゃんにCDかりててさ。返しに行こうと思ってたんだけど…一君に頼んだ。」
「借りたものぐらい自分で返せ。」
「わかってないなー一君。返しに行ったら名前ちゃんに会えるじゃない。話もできるし、もしかしたら部屋に上がれるかもよ。」
「へ…部屋!?」
「僕らみんな幼なじみみたいなもんだし、中学生の時は二人で遊びにいったじゃない。ま、そういうことだからさ。よろしくねー。」
総司は俺の手にCDを押し付けると手をひらひらとさせて自分の家の方へ歩いて行ってしまった。
残された俺はぼんやりとCDを見つめた後、自分の家ではなく名前の家へと向かうことになった。