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どんなにがんばったって
どんなに背伸びしたって
いつまでも縮まらない。
この距離だけは縮まらない。

わかっているけど。
悔しいんだよ。




――ごめん、残業で遅くなる!なるべく早く帰るから!



こんなメールが入ってきたのはついさっき、時計が十時を指す頃だった。



――わかったよ。駅まで迎えにいくから着いたら連絡して。まだ眠くないし。


物わかりの良い彼氏に見えるだろうか。
眠くないのは嘘じゃないし、迎えに行くのは心配だから。
でも本当は一秒でも早く会いたいからなんて言えないじゃない。
そんな…子供みたいなこと。



送ったメールに返事はなくて、僕は冷蔵庫からお茶を取り出すとコップに注いで喉を潤した。
特におもしろいとも感じないテレビを消し、音楽をかける。
彼女の部屋に僕のものが少しずつ増えてすっかり居心地がいい空間になっていたはずなのに、どうしてこんなに心が晴れないんだろう。


僕の彼女はデザイン関係の仕事をしている。今は女性物の衣服がメインだが少し前までは下着をデザインしていたらしい。
仕事の内容はたいして知らない僕だけどデザイン関係ってだけで多忙なことは容易に想像がついた。
案の定、まだ社会人一年目だというのに彼女が終電で帰ってくることは珍しくない。
僕も普段は学校があるからこうして金曜の夜に彼女の家に来て土日を一緒に過ごすというのが決まり事になっていた。


彼女との出会いは僕が高校二年生の時。
親戚の紹介で家庭教師をつけてもらうことになり、彼女がやってきた。
家庭教師のバイトをする大学生って普通そこそこいい大学でてる人じゃない?
服飾系の学校に行っている人に見てもらうなんて…と始めはうちの親も戸惑っていたけれど、彼女は頭が良かったようだ。どうやら服飾系の大学に受からなかったらそこそこレベルの高い国立大へ進む予定だったらしい。

期間は一年間。
彼女が卒業するまでだったがその期間で僕は十分すぎるほど成績が伸びた。
最初は明るくて服の話を始めると勉強そっちのけになっちゃうのがおもしろくて、彼女が来る日はなんとなく楽しいなぐらいにしか思ってなかったのに。

いつの間にか僕の方が夢中になっちゃって。
勉強を教わる日以外でも映画に誘ったり、ご飯を食べに行ったり…何かと理由をつけて誘うことが多くなった。

そして、彼女が大学を卒業する日。


――僕と付き合ってください。


真っすぐに彼女を見つめて言うと少しだけ驚いた表情をして…
でもふんわり笑って頷いてくれた。
あの日を僕は今でも忘れない。


嬉しすぎてキスをした後、真っ赤になった可愛い彼女を、大切にしようと思ったんだ。


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