3


「もう帰っちゃったよな…。」

下駄箱にも校門のところにも名前の姿はなかった。
家の方向が同じだから帰り道のルートは同じはずなんだけど走ってもなかなか姿が見えない。


「…!」


いつもだったら何も気にしないで通り過ぎる小さな公園。
公園のベンチに名前は座っていた。
うつむいてじっとしている。


俺は近くの自動販売機で飲み物を二本買い名前に近づいた。



「名前…。」

「平助君??」

「あのさ…。」

「あのね!平助君!…私失恋しちゃった。」


そう言って笑う名前にこっちが苦しくなる。
ジュースを差し出すといいの?と聞いてありがとうと受け取った。


「斎藤君、あんな可愛い彼女がいたんだね。話している雰囲気でわかっちゃったよ。」

「ごめん!俺…二人が付き合ってるの知らなくて!その…。」

「あ、ううん大丈夫!平助君は知ってて応援するとか言う人じゃないってわかってるよ。斎藤君のこと好きな私も気づかなかったもん。仕方ないよ。」

「名前…あのさ。」

「あーあ。なんかあっけないよね。失恋っていきなりくるんだ。まあ仕方ないか。もともと見ているだけで幸せって部分が大半だったし。」


無理すんなよ。
お前全然笑えてねえんだよ。
見ているだけで幸せなんてそんなことあるもんか。
あんな風に一君を見てたじゃねえか。
なのに辛くないはずがないだろ?


「平助君…?」

「え?」


やばい、俺…声にだしてた?
慌てて口元に手をやったところで遅い。
すると名前の目がみるみる潤んでいった。


「ご…ごめ!俺!あの!」

「ううん。ありがと…。」


ボロボロ泣きながらなんで礼を言うんだよ。


「そうだよね。ちゃんとこうして泣かなきゃ。辛いって言わなきゃ。じゃなきゃ私、いつまでも終われないよね。」

「…俺、お前が落ち着くまでいるから。好きなだけ泣けよ。」

「ありがとう。」


名前はハンカチを取り出して顔を押さえた。声はださなかったけど我慢してるのが伝わってくる。本当は思い切り泣かせてやりたいけど外だもんな。


どれくらい時間がたったんだろう。
多分十分もたってないんだろうけど俺には長く感じた。


「平助君…。」

相変わらずハンカチを顔に当てて下を向いた名前が俺を呼んだ。

「ありがとうね。ごめんね。」

「気にすんなって。俺に出来ることそれぐらいしかないし。」

「ううん、本当に助かった。ありがとう。」

「ああ。」


やっと笑った。
そう、その顔が見たかったんだ。

これからもずっと。
その笑顔が見たい。

俺の思いは届かないって
この恋は叶わないって諦めようとしていたけど。
やっぱり無理だ。
絶対叶わないなんて言いきれるほど、俺まだ何もしてねえんだもん。


「あのさ。名前。」

「ん?」

「俺も失恋したんだよね。最近。」

「え!?そうだったの?ごめん…私ばっかり話聞いてもらってて平助君の話…。」

「いいんだよ。俺が話さなかっただけだから。諦めようと思ってたんだけどやっぱり無理だ。俺、ちゃんと伝える。」

「うん。今度は私が応援す…。」

「いや、応援じゃなくて、俺のこと、もう少し見てほしい。」

「え?」


深呼吸をして名前を見た。
泣いたせいか少し腫れぼったくなっている目さえ可愛いって思う。
俺、絶対そんな顔させないから。


「俺、名前が好きなんだ。ずっと好きだった。」

「…!?」

「お前が一君のことが好きって知ってから諦めようと思ったんだけどさ。だけどやっぱり無理だから…ちゃんと伝えたかった。」

「平助君…。」

「もちろんお前はまだ一君のこと忘れられないだろうし、すぐには無理かもしれないけどさ。俺、お前のこと大事にするし絶対たくさん笑わせるから!だから…。」


――俺にもチャンスください!


真っすぐに見つめて言った俺に
戸惑いながらも小さく頷いた名前を見て。


ああ、総司の言うとおり、馬鹿みたいに真っすぐいけば案外うまくいくのかもなんて思った俺がいた。

これからが本番だ。
これから、絶対振り向かせてやるから
見ててくれよな?


―I never got over you―



(よっしゃー!!俺がんばるから!)

(えっとあのでも…私。)

(今すぐじゃなくていいから。絶対俺を選んでもらえるようがんばる。)

(…ありがとう。平助君。)






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