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最後の授業が終わっても俺は動けなくて。
ぼーっと教室を見ていた。
いや、正確には名前の方を見ていたんだけど。
廊下側の席にいる名前はカバンに教科書詰め込んで帰る支度をしたっていうのに動く気配がない。
視線の先を追うまでもなく、見ているものは何だかわかっている。
一君だ。
一君も廊下側の席の一番前。
一君と名前の間の生徒たちが帰ったから直接後姿が見えるんだろうな。
ああ、あいつあんな目でいつも見ていたのかって思うと一君がうらやましい。
俺の視線になんて全く気がつかないんだろうな。
ずっと見ていてもあいつがこっちを見ることはなかった。
だけど表情が突然変わったのがわかった。
思わず俺は一君に視線をうつすと一君の席の前に千鶴が立っていた。
(千鶴?部活の話か??)
千鶴は俺の幼なじみだ。俺達剣道部のマネージャーもしているから一君や総司と話すことは珍しくない。…ないんだけど。
「平助。君に朗報。」
突然呼びかけられて俺は後ろの席を見る。
総司が携帯をいじりながら話しかけてきた。
「どうやら一君と千鶴ちゃん。付き合ってるみたいだよ。」
「は!?」
「実は数日前に二人が一緒に帰ってるって話聞いてさ。一君にメールでかまかけたんだよね。付き合うことになったんだって?お幸せにーって。そうしたらさ。」
総司が携帯のメール画面を俺に向ける。
そこには一君からのメールが表示されていた。
――黙っている必要もないな。そういうことになった。
他にも書いてあったけどつまりは肯定したってことだろ?
一君と千鶴が?
俺としては二人とも大切だし、祝福したい気持ちでいっぱいだけど…。
すぐに名前の方を見る。
二人の雰囲気に何かを感じたのか、泣きたいような、傷ついたようなそんな切ない表情だった。
そのままカバンを握りしめて教室を出ていく。
「名前!」
「そっとしておきなよ平助。失恋した瞬間ぐらい一人になりたいでしょ。」
「だけど…。」
「あのさ、これチャンスなんだよ?わかってる?」
「チャンスって…。」
追いかけようとした俺の腕を掴んだ総司は眉間に皺をよせて俺を見ていた。
わかってるよ。
チャンス…なんだろ?
あいつが失恋したら俺の方を見てくれるかもしれない。
だけど…。
「喜べねえよ。」
あんな表情見たくねえもん。
あんな…悲しそうな顔。
「ほんと馬鹿だね、君って。」
「…。」
「俺なら悲しい思いはさせない。笑わせてやるぐらい言ってくれば?」
「は??」
「平助なら寒気しそうな台詞も真っすぐ言いそうだから。」
おい、総司、笑いこらえてるのがものすごく伝わってんぞ。
んなこと言えるか!!!
「ま、馬鹿みたいに真っすぐこられたらさ、名前ちゃんも笑っちゃって、失恋したことなんて忘れちゃうかもしれないから慰めてあげなよ。」
「…そうするよ。」
俺は総司にそう言うとカバンを掴んで教室を飛び出した。