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「もうお父さん。私お母さんじゃないよ。」

「ふふっ。左之助さんたら。」


二人の声に我に返った。
気がつけば目の前には純白のドレスを身にまとった娘、隣にはくすくす笑う名前がいた。


「お母さんに似てるからって、まさかお母さんと間違えられるとは思わなかったよ。」

「わ…悪い。つい思いだして…。」

「もー。ねえねえお母さん!どうかな!?」

「綺麗よ。とても綺麗。ね、左之助さん。」

「ああ。お前より綺麗な花嫁は探してもなかなか見つからねえな。」

「はいはい、お父さんはお母さんしか目にないくせに。」

「おいおい。」


ドレスや髪型をチェックしている娘はキラキラ光って見えた。
ああ、嫁にいっちまうんだなと思うと目頭が熱くなる。
…泣かねえけどな。


「お父さん、お母さん。」

「ん?」

「どうしたの?」

「後で手紙読むけど…育ててくれてありがとう。」


だめだろ、その言葉は。
俺の我慢を返せよ。
不意打ちに目頭の熱が戻ってきたが丁度係の人が入ってきてくれて俺は泣かずにすんだ。


「では花嫁さん、花婿さんのところへ。お父様も後できてくださいね。バージンロードの説明がありますので。」

「じゃあまた後で。お父さんよろしくー!!」


慌ただしく出ていく娘を見送りため息をついた。
子供のうちはこの気持ちはわからねえだろうな。


「ふふ、左之助さん泣きそうでしょ。」

「…仕方ねえだろ。大事な一人娘だぞ。」

「そうねぇ。でも幸せそうで良かった。」

「ああ。」

「私も幸せですよ、左之助さん?」

そう言って微笑む名前に俺は幸せな気持ちになる。
俺の方がたくさんの幸せを貰ったんだ。
感謝してもしても足りないぐらいに。

「名前。結婚した時に誓った言葉。覚えているか?」

「はい。絶対幸せにするって。この気持ちは変わらないって。」

「ああ。」

あの時確かに俺はそう言った。
だけど今になって思うんだ。


「変わらないものってないのかもな。」

「え?」

「俺もお前もだいぶ年とったな。」

「ああ、見た目は仕方ないですよ。さすがにいつまでも二十代ではいられないでしょ?」

「中身もだよ。心もだ。」

「それってどういう…?」

俺の言葉をマイナスにとらえたのか、名前が不安そうに俺を見た。
違う、名前。
俺は…。


「変わらないものなんてない。だって俺は…あの時よりももっともっとお前のことが好きだ。あの時よりも愛おしいって思ってんだよ。」

「左之助さん…。」

「これからもお前を悲しませたり、怒らせたりするかもしれねえ。だけどたくさん笑わせてやる。だから…傍にいてくれ。」

「当たり前でしょう?」


そう言って笑うお前はあの時より皺が増えた。
だけどそれすら愛おしい。
俺は名前を抱きしめるとそっと額にキスをした。


「も…もう!左之助さん!今日はあの子の結婚式でしょう?行きますよ。」

「照れんなよ。」

「照れてません!!」


耳まで真っ赤にした妻を愛おしいと思わない夫がこの世に存在するのか?
俺は笑いをこらえるのに必死になった。
お前がいてくれるなら娘を笑顔で送り出せそうだ。


―変わる幸せ―



(名前。)

(はい?)

(愛してるぜ。)

(!?)

(私、お母さんとお父さんみたいな夫婦になりたい!!!)





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