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出会って二年、俺は名前に告白をした。
俺にしてはだいぶ遅かったと思う。
だが名前の同期の千鶴から話を聞いているとどうもあいつは恋愛の免疫がないらしく俺が食事に誘っても休みの日に映画に誘っても自分が恋愛対象として見られていると思っていなかったようだ。周りから見れば一目瞭然だったのにな。
焦ってもいいことはねえ。それは俺も経験上よくわかっていたからのんびりと待った。
少しでもあいつの中の俺の評価を上げたかったんだ。
あいつにとって安心できる存在でありたい、ただそれだけだった。
そんな俺の思いは届いたらしい。
俺の告白にあいつは笑顔で頷いて受け入れてくれた。
そこからはあっという間だった。
一年ほど同棲して、そろそろプロポーズしようかと考えた頃。
あいつの様子が少しおかしいことに気付いた。
「名前。」
「え?あ、何かな?」
「お前最近少し変だぞ。何かあったのか?」
名前に限って浮気はないと思っていたがどうもおかしい。
話をしていても上の空なことが多いし休みの日も調子が悪いと寝ていることが多かった。
一人で何か考えている時間も増えていた。
「何でもないよ?」
「嘘つくな。どれだけ一緒にいると思ってんだ。…一人で悩むなよ。」
そう言って名前を引きよせて抱きしめた。
腕の中で名前がぴくりと震える。
「俺はそんなに頼りないか?お前の悩みを受け取れないように見えるか?」
「そんなこと!!」
「じゃあ話してくれよ。最近顔色も悪いし心配でしょうがねえんだ。」
「左之助さん…あのね。」
腕の中からじっと見つめられて思わずぐっとくる。
そういえば最近体調がよくないと言っていたからなるべく触れないようにしてたんだ。
そんな邪な考えを俺が抱いているのも知らず、名前が言葉をつづけた。
「赤ちゃんが…できたかもしれないの。」
「…は?」
「ご…ごめんなさい。そのあの…まだ病院はいってないけど。多分。どうしていいかわからなくて。あの、迷惑かけたくな…。」
「名前!」
「はい!?!?」
「子供ができたのか?」
「えっと…多分。でもまだ…。」
まだ今なら引きかえせる…そう言わんばかりの表情をする名前の言葉を遮った。
引き返す?馬鹿言うなよ。
俺とお前の子なんだろ?
嬉しくないわけがねえじゃねえか。
「今すぐ病院行くぞ!車用意してくるから!!!」
「さっ左之助さん!!えっとあの…。」
「順番が違って悪かった。だけどお前の親御さんには土下座してでも認めてもらう!だから…。」
ぎゅっと名前の両手を握りしめた。
本当はもっと色々準備するべきだったんだろうな。
だけどこの時の俺はもう言わずにはいられなかったんだよ。
「俺と結婚してくれ。」
「っ…はい。」
ぼろぼろと涙をこぼす名前を優しく抱きしめ、その後すぐに病院へ行った。
結果、彼女は妊娠をしていて俺達はその後すぐに互いの家族に挨拶をし、籍を入れた。
後から聞いた話しだが名前は俺が困ると思っていたらしい。
何を困ることがあるんだって言ったが男の人はためらうかなと思ってなんて言いやがった。
俺自身は嬉しすぎて万歳したいぐらいだったというのに。
「絶対に幸せにする。だから、ずっと傍にいてくれ。」
「はい。」
「この気持ちは変わらない。ずっとずっと好きだ。名前。」
「私も…左之助さん。」
安定期に入り、お腹が大きくなりすぎる前に俺達は身内だけで式をあげた。
あの時のあいつのドレス姿、今でも目に焼き付いている。
そしてその時に誓った言葉も。
忘れないものなんだな。