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チャイムを鳴らすとはーいという少し高めの声が家の中から聞こえてきた。
間違いない、名前の声だ。


ドアスコープから俺の姿を確認したのだろう、一?と俺を呼ぶ声と同時にドアが開いた。


「あれ?どうしたの??」

「これを…。」


きょとんとする名前の目の前に総司から渡されたCDを突き出した。


「これ、総司に貸したやつだ。何で一が??」

「それは…総司が返しに行こうと思っていたらしいのだが急用ができたらしく、その、俺が代わりに…。」


本当のことなど言えるはずもなく俺は適当に言葉を返すと疑う様子もなくわざわざありがとうと言われた。


「お茶でも飲んでく??誰も帰ってこなくて暇だったんだ〜。」

「…。」


俺の返事を聞くまでもなく、名前は玄関に俺を引っ張り込みスタスタとリビングの方へ歩いていった。
仕方なく(仕方なくだ)俺は彼女の後についていく。


こんな無愛想で言葉の足りない俺にも優しくしてくれることはありがたいのだがもう少し警戒をすべきではないのか?
誰もいない部屋に男を入れるなど無防備にも程があるだろう。
これは俺が言い聞かせる必要が…

「名前!あんたは…。」

「一、紅茶とコーヒーどっちがいい?」

「…コーヒーで。」

「はーい。」


言い聞かせるのではなかったのか!
情けない…こんな風だから警戒されないのか…。
ぐったりとソファに座り頭を抱えていると名前が大丈夫?と声をかけながらコーヒーを目の前のテーブルに置いてくれた。


「大丈夫ではないが大丈夫だ。」

「変な一。」


クスクス笑う表情が昔から好きでついつい目を奪われる。
ぼーっとしすぎて総司につっこまれていたな、そういえば。
何故気がつかなかったのだ、俺は。


「何だかゆっくり話すの久しぶりだねー。最近は一も総司も部活で忙しそうだし。」

「ああ。そうかもな。」


中学の時は時々三人で遊ぶこともあったが高校に入ってからは一気に減った。


「そういえばさ、一は彼女いないの?総司もいないよね。みんなが不思議がってた。」

「ぶっ!」

「うわ!きたなっ!」

思い切りコーヒーを吹きだす。
さらりとそういうことを聞くことができるのは女子だからなのか?
一、二回と咳をした俺にすっとティッシュを差し出す名前に礼を言いつつ受け取った。


「い…いない。」

「何で?」

「何でと言われても…。」

「一もてるのに。変なの。」

「…あんたはどうなのだ。」


突然の質問に慌ててしまったのは不覚だったがこの流れはありがたく乗らせてもらう。
自然な流れで聞くことができたではないか。


「私?いないよ。だって…。」

「だって?」





「ただいまー!名前?いるかー?」



「あ。帰ってきた。」

「この声は…。」


玄関から真っすぐリビングへ向かってくる足音の主はすぐにわかった。
中学時代から知っているが今となっては自分が通う高校の教師。


「あ、斎藤?何でお前…。」

「お邪魔してます。原田先生。」

「CD届けてくれたんだ〜。お兄ちゃんもコーヒー飲む?」

「ああ。すまねえな。」


どかりとソファに座り、肩がこっているのか腕をぐるぐる回す原田先生は俺をじーっと見ていた。


「…何か。」

「いや、俺の可愛い妹が狙われてねえか心配してたんだよ。」

「!?」

「お兄ちゃん!もう、一は前からうちに来てたでしょ?」

「ばーか。こいつも高校生だからな。昔とは違うんだよ。お前もほいほい家になんか入れるな。少しは警戒しろ。」


ごめんね、一と謝らないでくれ名前。
俺はあんたに謝ってもらえる資格がない。むしろ原田先生の言葉がダイレクトに突き刺さっている。

そうか。名前に彼氏ができない理由。

こいつだ。あ、いやこの人のせいだ。


「お兄ちゃんが厳しくチェックするから私彼氏もできないんだよ。」

「俺が却下するような奴はどうせ付き合ったところで長続きしねえよ。それに俺に止められたぐらいで諦めるようならお前も本気じゃねえってことだ。」

「お兄ちゃんに睨まれて立ち向かえる人の方が少ないと思う…。」


名前が深いため息をついてコーヒーを一口飲んだ。
確かに原田先生は体格も大きいし強いと聞いている。
睨まれたらびびってしまう者の方が多いだろう。


俺は…。
俺はどうだ?


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