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「どうしようどうしようどうしよう!!!」


待ち合わせの時間からもう二時間。
もちろん遅くなることはメールで伝えたけれど。
それにしたって!!!

私は改札を飛び出すとすぐに地上へでる階段を駆け上がった。

個人病院で看護師として働き出してもう三年目になる。
まだまだ三年目なんて新米みたいなものだし、わからないこと、至らないことが多すぎて先輩にご迷惑をかけてしまうから雑用でも何でも私にできることはするようにしている。
これでも大きな病院とかに勤めている友達に比べれば自由な時間も休みも多いし恵まれてるんだけどね。

診療時間が終わってから急患が入ってしまいバタバタしてしまったのだ。
幸い患者さんの容体は落ち着いて大きな病院に搬送する必要もなかったのだけれど。
早めに帰らせてもらう予定がすっかり遅くなってしまった。

もちろん、この仕事をしていたらこんなことはよくあることで、患者さん第一だから仕方ないとは思う。思うんだけどね。


もうこれで五回連続なの…デートの遅刻が!!!
いつも走って彼の所へ行くと笑って許してくれるんだけど…なんだかなぁ。


「あ!平助君!!!」

「名前!お疲れー!!」


きっとどこかで時間を潰していてくれたんだろう。
平助君が待ち合わせ場所で私に気付くといつもの笑顔で手をふってくれた。


「ご…ごめ…ごめんね…。」

「落ち着けってー。走らなくていいんだよ、危ないから。大丈夫か?」

「でも…でもお腹すいたでしょ?もう九時…。」

「それはお前もだろ?何食べる?どこか行きたい店あるか?」

「うーん…バランスよく食べたいから…。」


ちゃんとしたご飯を食べたい。
看護師は体が基本だもんね。


「俺も腹減ってるし…こりゃあそこしかねえな。」

「ふふ。源さんのとこ?」

「あったりー!行こうぜ!」


源さんっていうのは平助君の知り合いの人で定食屋さんをやっている。
そんなに大きなお店じゃないけれどご飯はどれも美味しいし常連客でいつも賑わってるんだよね。

平助君がさっと手を握ってくれて私達は源さんの店へ向かって歩き出した。


社会人一年目の時、高校の同窓会があってそこで彼と再会した。
同窓会の知らせが来た時、私が最初に思い出したのは他の誰でもない、平助君だった。
あれから彼はどんな風に過ごして、今どうなっているんだろう。
今更どうにかなるものでもないのに、それでも当日までそわそわしてしまった。
そして…声をかけられた時、自分で自分の気持ちに驚いた。
だって、懐かしいとか会えて嬉しいとかよりも
ただただドキドキしてしまったから。

いくら初恋とはいえ、私はまだ彼のことが好きだったのかと思うとなんだかおかしくて。
きっと彼は新しく出会った人と恋をして、違う道を歩いているだろうに。

自分の気持ちを抑え、なんとか冷静さを保って彼と話をしていたら。

高校生の時の彼の気持ちを伝えられた。
驚いたけど、過去のこと。私もあっさりと自分の昔の気持ちを伝えられた。
ただそれだけ、懐かしいねなんて会話が続くと思ったのに。

――俺、もう後悔したくないからさ。意気地無しは卒業する。

彼の言葉は今でも覚えてる。
同窓会を抜け出して二人でご飯を食べて。
会えなかった五年間を埋めるようにたくさんの話をした。
それから何度も会うようになって、恋人になるまで時間はかからなかった。


「どうした?名前疲れてるなら無理すんなよ。帰る?」

「え?ううん!お…お腹すいたなって…。」


思い出に浸っていて彼の言葉が届かなかったらしい。
ぎゅっと手を握られて我に返る。
もっとマシな返答したかった。


「俺も!今日何食うかなー!源さんのとこの飯なんでも旨いからつい食い過ぎんだよ。」

「そうなんだよね。ついね〜。ダイエット中は絶対行けないよ。」

「ダイエットって…お前必要ないじゃん。いっぱい食えよ。うまそうに食ってるの見てんの楽しいからさ。」


そう言って私の頭をぽんぽんと撫でる平助君の笑顔はあの時と変わらないのに。
スーツ姿の彼はやっぱり大人っぽくて思わず俯いてしまった。


「どうした?」

俯く私の顔を覗きこむようにして平助君が聞いてくる。
照れたなんて言えない。
…こういうときは。

「平助君がかっこよかったから…。」

ぼそりと呟くとやや間があいてから平助君が慌てた声をだした。

「おっお前!そういうこといきなり言うなよ!!!」

私より顔を真っ赤にして慌てる平助君が可愛くて笑ってしまう。
もう付き合い始めて二年たつのに…お互い反応が大人じゃないね。
でも、そんなところが心地よくて好きなんだ。


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