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「そうじぃ…。」
「え?名前??」
静かに僕に抱きしめられていた名前が声をだした…と思ったら。
完全に泣いている声だった。
「わっ私も寂しかったよー!!」
「うわっ!名前!?」
くるりと体の向きを変えると名前は僕に抱きついてきた。
涙をぼろぼろこぼしちゃって、化粧がひどいことになっている。
「仕事は楽しいけど、忙しくて総司と会える時間減るし、電話もメールもすぐに返せないしー!!!!こうやって待たせちゃうし!!!」
「えっと…。」
「だけど総司はいつも文句言わないし。メールとか電話とかまめにしてくれてさ。私なんてすぐに返せないのにそれでも怒らないし!だから…総司はしっかりしてるな…大人だなって思ってたの。」
僕が…大人?
「私よりも年下の総司がそうなのに、私が我儘言うわけにいかないって思って。少しでもお姉さんらしくいたくて…だって総司は落ち着いたお姉さんが好きなんでしょ?」
僕そんなこと言った?
まあ年上のお姉さんって響きは素敵だと思うけどさ。
別にそうじゃなきゃいけないなんて思ったことない…っていうかもしかして。
「名前がいつも大人な対応とるのって…。」
「だって総司に嫌われたくなかったんだもん!!!!」
僕のせい?
「僕は年とかそういうこと関係なく名前がいいんだよ?」
「私だって年下だろうとなんだろうと総司がいいよー!我儘言われたって何とも思わないし、むしろ私も言いやすいからそのほうがいいよー!!!」
僕の腕の中で頭をふってイヤイヤしている彼女がとても可愛く見えた。
本当の名前はこうやって甘えたかったのか。
年は上だけど…僕と大して変わらないのかも。
「こんな大事な日にも終電で帰ってきて日付変わっちゃうし!!本当にごめんなさーいい!!!!」
「大事な日…?」
「え?それで総司怒ってたんじゃないの?総司の誕生日だよ。日付変わっちゃったけど。」
「あ…。」
「もしかして…忘れてた?」
すっかり忘れてた。
最近はずっとばかみたいなことで悩んでたもんだから。
「最近私ずっと遅かったし、総司の様子がおかしいこともなんとなくわかってたんだけど…聞ける余裕もなくて。ってかあまりにも時間があわなすぎるから別れようっていわれるんじゃないかと思うと怖くて聞けなかったの。」
「自分のふがいなさに悩んでいただけだよ。僕が別れよう何ていうわけないじゃない。」
「よ…よかったああああ。」
泣きながら笑う名前に思わずこっちも笑ってしまった。
ずっと僕達はくだらないことで悩んでいたんだね。
「少し遅くなったけどお祝いしよ!!ケーキ買ったの!」
「よくこんな時間にあいてたね。お店。」
「予約しててね。夕方さっと取りに行ってたんだ〜。会社の冷蔵庫に入れておいたから大丈夫!!シャンパンもあるよ!」
「…名前、僕未成年だよ一応。」
「ノンアルコールだから大丈夫!!!」
そうして彼女はまるで社会人とは思えないぐらいのはしゃぎっぷりで僕をお祝いしてくれた。これじゃどっちが年上かわかんないよね。
「総司!おめでとう!おめでとー!!!」
「はいはい、近所迷惑だからもう少し静かにね。」
「うう…なんか急に大人っぽくなった?」
「名前が子供っぽくなったんだよ。」
「そ…そんなことないし!」
「ねえ名前。」
「んー?」
子供みたいに大きな口をあけてケーキを頬張る名前を見つめながら。
―来年もその先も…ずっと僕の誕生日を祝ってね―
(ずっと…?)
(うん。僕も隣でずっと君を祝うから。)
(わーい!うんうん!まかせて!来年はちゃんとご馳走作るよ!)
((プロポーズのつもりなんだけどな…。))
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