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そして、彼女は念願の服飾系の会社に入り、デザイナーとしての道を歩み始めた。
いろんなデザインを見せてもらって、キラキラした目で説明を受ける度、僕は彼女が愛おしくて仕方なかった。
好きな人の幸せそうな表情ってこんなにも心があったかくなるんだって。
初めて知ったから。


よく考えれば今まで本気で人を好きになったことなんてなかったのかもしれない。
僕に声をかけてくれる女の子はたくさんいて、出かけることもあったけど今となっては何一つ心に残ってないんだから。


彼女が僕に好きって気持ちを教えてくれたんだって思うとより愛おしく思えた。


でも…。
最近は少しだけ、心が暗くなるんだ。


忙しい彼女と高校生の僕。
当たり前だけど会える時間は減るし、電話やメールだってなかなかできない。


本当は。


「もっと…会いたい。」


擦れたような声が部屋におちて、消えた。


そんなこと言えるわけがないじゃない。
子供みたいだなんて思われたら、別れようって言われるかもしれないし。
こんな僕でも男だから情けない姿なんて見せたくないんだよ。


二人で選んだソファに転がり目を閉じた。
最近一人になるといつもこうだ。
こうやってどんどん悪い方向へ考えて、暗くなって。


僕が彼女と同い年だったら、年上だったら。
こんなことで悩まないんだろうな。
彼女の悩みを聞いてあげて、慰めてあげて。
他の人に取られないようにさっさとプロポーズもできるのに。


神様は意地悪だ。





――――――――――――――――――――――――――――――――





「…じ。総司。風邪ひいちゃうよ?」

「ん…?」


体を揺らされてゆっくりと目をあける。
部屋の明かりが眩しくてなかなか目があかなかったけど、耳に届いた声が僕を夢の世界から引きずり出した。


「あれ?名前?」

「もう総司はー。寝るならちゃんとお布団入らないと風邪ひいちゃうでしょ?」


くすくす笑って僕の髪を撫でるのは間違いなく彼女の名前だった。
あれ?
だって名前は仕事で遅くなるからって。
僕が迎えに行くはずだったのに。


「まさか…一人で歩いてきたの?駅から?」

勢いよく起き上がり名前の腕を掴んだ。
この辺は住宅街だから明かりも少ないっていうのに…!

「違うよ。会社の同僚の子とタクシー乗ってきた。大丈夫。」

「…そう。」

「心配性だなあ。総司は。」

「…当たり前でしょ。」


掴んだ腕を自分の方へ引き寄せて彼女を抱きしめる。
そのまま隣に座らせてぎゅっと彼女の温もりを確かめた。


「総司〜まだお風呂入ってないから汗臭いよ…。」

「名前の匂い好きだからいい。」

「どうしたの?総司。今日は甘えん坊だね。」


そう言って僕の髪を撫でる彼女の手が。
何故か今日だけは素直に受け入れられなくて。


「総司?」


彼女を解放して僕の頭に触れていた手を払った。


「…子供扱いしないでよ。」

「総司?怒ってるの?」

「僕は…。」


目を丸くする名前を見てすぐに我に返る。
何やってんだろ。
こうやって名前が僕のことを撫でるなんていつものことじゃない。
子供扱いするなって…もう発言が子供だよ。


「あの…遅くなってごめんね?お茶いれよっか。」

「名前…。」

「寝ぼけてたんでしょ。座ってて。」


待って。
どうして君が謝るの?どう考えても悪くないのに。
君がそういう態度だとますます自分が子供に思えて悲しくなるんだよ。


「名前!」

「ん?」

「ごめん…。」

「え?」


キッチンへ向かおうとする名前を後ろから抱きしめた。
一言謝ると次々と言葉があふれてくる。


「名前は何も悪くないよ。僕が…僕が勝手に…。」

「総司!?どうしたの?」

「僕が子供だから…。どうしたって追いつけるわけないのに、年齢が変わることなんてないのに、なのに焦っちゃって。名前が優しくて大人だから…余計に苦しくて。本当は名前のことを支えてあげて、悩みとかも聞いてあげたいのに。忙しくても会えなくても余裕でいられるようになりたいのに…。」


言葉だけじゃなくて涙もでてきた。
もう嫌だ。
これじゃ完全に子供だ。
かっこわるいし情けない。


「なのに会えなくて…寂しいって思っちゃって…。」

「総司…。」

「ごめん。我儘言いたくないのに。困らせちゃうよね。もうこんなこと言わないからさ、だからお願い…。」



――別れたくない。



涙もでて悲しくて、苦しいのに。
どこかで冷静に見ている自分がいて。
何女の子みたいなこと言ってんのって呆れてるんだ。
本当にその通り。
名前だってきっと…そう思ってる。


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