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「まぁ…百歩譲って僕が名前ちゃんに抱きついているのは認めますけど。」

「譲るんじゃねえよ、素直に認めろ。」

「落ち着け、土方さん。」

「喧嘩するなって何ですか。僕がいつ名前ちゃんと喧嘩したんですか。」

「あ…はい、私も沖田さんと喧嘩した記憶はないです。」


確かに喧嘩というのは大げさだ。
こいつらがまさか刀ふりまわして喧嘩するはずもなく。
ものすごい口論をするわけじゃねえ。
ただな…。


「この前もしてただろ…朝餉の場で。」

「朝餉…?」

総司と名前は頑張って思いだそうとしているようだが全く身に覚えがないらしい。
すると原田が代わりに気がついた。

「もしかして、あれか?総司にちゃんと飯を食えって言い始めて…。」

「そうだ。」

いつも通りといっちゃそうだが総司は時々飯をちゃんと食べない。
近藤さんが言えば一発なんだがその日は朝早くから出ていて不在だった。


『沖田さん、ご飯ちゃんと食べてください。千鶴ちゃんと斎藤さんが作ってくださったんですよ?』

『んーでもお腹すかないんだもん。』

『だめです。ちゃんと食べないと力がでませんよ。それに体を壊したらどうするんです。食べてください!!』

『えー。いいじゃない。僕は元気だよ?それとも病気に見えるの?』

『そういうことじゃありません!沖田さんが食べないなら…私も食べません!』

『どうしてそういうことになるのさ?名前ちゃんは食べなきゃだめだよ。将来子を産む大切な体なんだからね。ほら、僕のお芋もあげるから…はい、あーん。』

『だ…だめです!沖田さんも食べてください。』

『じゃあほら、食べさせて。名前ちゃんが食べさせてくれるなら食べるよ。』

『ええ!?し…仕方ないですね。今日だけですよ!』




…。
……。
………。



思いだすだけでぐったりする。
原田の説明で二人も思いだしたのか、名前はそれでも首を傾げ、総司も不服そうな表情をしている。


「土方さん、それのどこが喧嘩なんですか。」


わかってらあ。
喧嘩じゃねえ。口論とも違う。
ただな…。


「土方さん、それは喧嘩っていうよりただの惚気…。」

「言うな原田。事実、あの時の広間の空気を思い出せ。全員が迷惑をしていたんだ。」


喧嘩じゃなくてただの惚気だってわかっている。
ただ、紙に書けるか!?惚気るななんて書きたくもねえ!
ただでさえ暑い京の夏、朝っぱらから広間の空気をさらに蒸し暑くしやがって…。
あの新八すら胸やけがすると言って飯をいつもの半分しか食わなかったんだぞ。


「す…すみません。皆さまにご迷惑をおかけしているとは気付かなくて…。ただ、沖田さんにきちんと食事をとってもらいたくて…。」


頭を下げる名前に少しだけ胸が痛んだ。
わかってる、こいつは悪くねえ。悪いのは…。


「土方さん、名前ちゃん苛めないでくださいよ。切りますよ。」

「お前だ!お前が原因だろうが!」

「落ち着けって土方さん!総司、お前も刀から手を離せ!」


原田がいてくれてよかったとこの時ほど思ったことがあっただろうか。



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