「平助君。問題です。」
「は?何だよ、いきなり。」
「あの二人は何の会話をしているでしょうか。」
沖田が指さす方向に藤堂が目をやるとそこには斎藤と名前が立っていた。 ホームセンターの一角、ペットコーナーに沖田が買っている猫の餌を買いに来た四人は買い物を終えるとふらふらと別行動をしておもちゃやペット用のおやつを見て回っていたのだ。
名前と斎藤はガラス越しに子犬を見ながら会話しているようだ。
「何の会話…?」
「はい、よく聞いてみて。」
―へんてこな君―
「やっぱり小さくても大きくても綺麗な筋肉っていいと思うの。」
「筋肉…?皆だいたい程良くついているはずだろう。」
「そんなことないって!最近ついていない奴多すぎるよ。」
「そうなのか?最近はそうなのか?」
「あー素敵だよね。筋肉。」
「俺はそのような目で見たことはなかったからな。」
「男の人ってそうじゃない?そういうの気にするの女の子だけだよ、きっと。」
「そうなのか。」
「一は?どんなところがいい?」
「俺は…ふわふわとしているところが…。」
「え?ふわふわ?」
「毛並みだ。」
「あれ?一って毛フェチ?」
「毛フェチ…?いや、だいたい皆そうなのではないのか?」
「そう?人それぞれじゃない?」
「わかった?」
少し離れたところでこっそりと会話を聞いていた二人は話の続きを始める。
「え?筋肉と毛…。ってか犬見てるんだし、犬の話だろう?」
「うーん。五十点。」
「ええ!?何でだよ。」
「ヒント。さっきまで二人は永倉先生が犬を飼い始めたという話をしていたよ。」
「それじゃやっぱり犬だろ。」
「もう少し聞いてみよう。」
しっと人差し指を口元に当て、沖田は口角をあげて二人のほうへ視線を送った。 藤堂もつられて二人を見る。
「まあ毛フェチはけっこういるからね。私は断然筋肉だけど。」
「それは変わっているのでは?」
「ええ!?女子は多いよ。」
「そう…なのか?」
ぐっと握りこぶしを作って語る名前に斎藤は少し驚いたような顔をしたが一瞬で表情を戻す。 しかし目の前の柴犬の子供に目をやるとほんの少しだけ緩んだ表情になった。
「やはり、見ているだけではなく実際に触れたくなるものだな。」
「え!?一も!?」
「名前もか?」
「うんうん!見てるだけじゃ足りないよね!触りたいよね!!!」
「では触りにいくか?たしか頼めば触らせてくれるはず…。」
「ええ!?誰に!?誰に頼むの!?」
「…店員だが。」
「え!?どの人どの人!?あ、私あの人が良いよ。」
そう言って名前が指さしたところにいた店員は二十代後半の青年。いわゆる細マッチョといった体型で黙々とペットの餌を陳列していた。
「彼は商品整理をしているではないか。すぐそこにいるだろう。」
斎藤が指さす先には小柄の女性が立っていた。ちょうど客がいないこともあってガラスの向こうの子犬達を見ている。
「女の人!?一!それはだめ!セクハラだから!!」
「何故!?」
「え?だって女の人の筋肉触るとか、髪の毛触るとかだめでしょ。」
「…名前。あんたは一体何の話をしている?」
「え?」
「…俺にもわかんねえ。どういうこと。」
「え?一君は犬の話。名前ちゃんは筋肉の話でしょ。人間の。」
「はあ!?どういう流れで筋肉きたんだよ!」
「え?永倉先生がが犬を飼った…の話。永倉先生ってワードからきたんでしょ。筋肉は。」
「普通そっちにいくか!?」
驚愕の表情を浮かべる藤堂、こらえきれず笑いだす沖田。 騒いでいる二人に名前と斎藤が気付き、やっと四人は合流した。
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