「俺は…ずっとあんたを見ていた。」
一歩、一が私に近付いた。 逆光で一瞬、一の顔がよく見えなかったけど今度は私を真っすぐに見ていてくれた。
「私も…ずっと見てたよ?」
「なっ!?」
「気付かなかった?一に見てもらいたくて、一と話したくて、一にかまってほしくて…校則違反してたんだよ。」
「そうだったのか…?」
だけど必要なかったんだね。 本当はお互いがお互いを見ていたなんて。
「もう校則違反などするな。必要ない。そんなことしなくても…。」
――これからは傍にいる。
その声が届いたと同時に私を一の両腕が包み込んだ。 細身だと思っていたのにけっこうしっかりしていてドキドキしてしまう。
「うん…。あの、私一のこと…。」
言いかけた私の口を一の人差し指が塞いだ。 驚いていると少しだけ微笑んで続ける。
「俺に言わせてくれ。…名前、好きだ。」
「私も!」
ああ神様。 こんなに幸せでいいんですか?
一の腕の中から静かに離れると彼の手にあるネックレスに目がいく。
「あ、つけないから返してー。これお気に入りなの。」
「ならん。」
「ええ!?」
手を伸ばした先にあったはずの一の手はするりと上へと伸び、私の届かない位置になる。
「どうして?」
「これはこれ、俺と名前が付き合ったこととは関係ない。とりあえず没収だ。」
「ええ!?一のけち!」
「…放課後、どこかへ行こうかと思ったが、生徒指導室行きとするか?」
「いやあああああああ!!!!」
あれ、おかしいな神様。 どうせなら最後までラブラブ甘甘にしてくださいよ。
だけど。 こうして一に怒られるのも悪くないなんて思っちゃうんだから。
やっぱり私は幸せものだ。
終
nextあとがき
prev next
|