一のことを好きになったのは高校一年生の時。 同じクラスで席が隣でまず目を奪われた。 だってあの見た目だもん。 口数は少ないけど自分の好きな事に関しては熱く語り始めるところとか、誠実なところとか、もう好きになったら全部が好きで。
だけど思いを告げられぬまま、二年生になってクラスが分かれてしまった。
そして気付いたの。 クラスが違ったら、私と一をつなぐものなんて何もないんだってことに。
委員も部活も違う。 共通の友達も少ない。 用もないのに毎日会いに行くわけにもいかないじゃない…彼女でもないのに。
どうしようと思っていたある日。
『名前。』
『一??』
廊下でふと呼びとめられた。
『アクセサリーは校則違反だぞ?』
ネックレスをしていた私は一にそう言われて目を丸くした。 確かにアクセサリーは校則違反…なんだけど。 正直ブラウスで隠れるし、何より先生たちもそれぐらいは何も言わないから。
『あ…ごめん。』
でも一に言われたら謝るしかなくて、ネックレスを預けた。 放課後にとりにいくとネックレスを返されるついでに少し話をしたのだ。 二人しかいない教室で…本当に嬉しかった。
そこから私は、先生には怒られない程度の校則違反をすることにした。 一に見つかったら、またこうして話ができる…そう思っちゃったんだ。
「名前?」
「え?」
「人の話を聞いていないのだな。」
「わわっ!ごっごめん!」
風紀委員様が眉間に皺をよせていらっしゃる! 私のアクセサリーをふわりと揺らしながら。
「校則違反に対する反省の色はなし…か。」
「ちょいと昔のことを思い出していて…。」
「やはりこのまま土方先生に…。」
「ああああ!それだけはご勘弁を!」
「あんたは…。」
ふうと小さくため息をつくと一は掌にのっている私のアクセサリーを見つめて呟いた。
「先ほども聞いたが何故没収されるのをわかっていてつけてくるのだ。俺にいちいち怒られるのは楽しいことではないだろう?それに一年の時はあんたは真面目だったはずだ。」
「それは…。」
そうなんだけど。 まさか言えないよ。本人に。 あなたとお話がしたいから、かまってほしいからこんなことしてますなんて。 子供じゃないんだし。
「何かあったのか?」
「え?」
「俺でよければいくらでも話を聞いてやる。最近のあんたは以前より元気がなさそうに見えるのだ。」
突然の言葉に耳を疑った。 元気なさそうって…そりゃ一とは違うクラスになるし、なかなか話せないしで元気なかったかもしれないけど。 気付いてくれてたの?
「以前って?」
「一年の時だ。」
「クラス変わってからあまり話してないのに…どうして気付いたの?」
「っ…それは…。」
やっぱり校則違反した甲斐があったってこと? 何度も捕まえようとしてれば目に入るのかな。
「俺がどうしてこうやって毎度毎度あんたを捕まえられているのか考えたことはないのか?」
あまり表情がない一の心がよくわからない。 けどいつも真っすぐに見つめてくる瞳が少しだけ下を見ていた。
どうして? そりゃ一は風紀委員でもとびぬけて厳しいと言われてるぐらいだし…。
「それは…一が半端ないからでしょ。動体視力。」
「…他に考えられることはないのか。」
あれ? 一が頭を抱えているよ。どうして?WHY?
「俺だって全ての生徒を見ているわけではない。」
え。
「だが、あんたが校則違反している時は必ず見つけられている。」
それって。
「その意味が、わからないのか?」
待ってよ。
「それじゃまるで…私のこと、見てくれているみたいだよ…?」
「そう…言っているつもりだ。」
屋上に風がふいて、一の髪がさらりと靡いた。
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