「ち…違うんですか?」
「さっきのはただの知り合いだ。別にそんな関係じゃねえよ。」
「でも…綺麗な方でしたし。」
「名前。」
名前を呼ばれて思わず肩が震えた。 そういえば、さっきから土方さん、私の名前を何度も呼んでいる。今までは名前を呼ぶことなんてなかったのに。
「俺が、祭に誘ったのはお前だ。お前だけだ。」
「土方さん…。」
「何でお前を祭に誘ったかって聞いたな。それは俺がお前と来たかったからだ。」
「それって…。」
「はっきり言わなくて悪かったな。俺はお前がいいんだよ、名前。お前のことが…。」
――好きだ
静かな川のせせらぎと、虫の声。 そこに土方さんの声が溶け込んだ。
ずっとずっと聞きたかった言葉が落ちてきて私の視界が滲んでいく。
「っ…何泣いてやがる!」
「だって…私…。」
ゴシゴシと少し乱暴に土方さんが私の目元を擦る。それでも止まらない涙に土方さんは私を自分の方へ引き寄せた。
「私で…いいんですか?」
「お前がいいんだよ。」
「だって、私より綺麗な人たくさんいて…私じゃ相応しくないって思って…。」
「名前。」
少しだけ体を離されて顔を上に向けさせられる。頬にある土方さんの手が熱くて、私の顔に熱が移った。
「相応しいとか、そんなもんはどうでもいい。俺の隣にいる女を決めるのは俺だ。」
「っ〜〜〜!」
「あー…なんで泣くんだよ。」
「土方さんがそんなこと言うからです!!」
一瞬止まりかけた涙はやっぱり止まらなくて。 困ったように微笑んだ土方さんが私をもう一度腕の中に閉じ込めた。
「まあいいか。明日からはちゃんと笑えよ。俺は笑ってる女が好きだからな。」
「ふぁい!」
涙でぐちゃぐちゃになった私の顔を見て土方さんは声をあげて笑った。 ひどいですと抗議をするとニッと笑って私に口づけた。
突然の出来事に涙は止まったけれど、代わりに顔が真っ赤になってしまって。
結局その後もずっと土方さんに笑われていた。
やっと落ち着いた私と土方さんがお祭りに戻るのはそれから四半刻が過ぎた後のことだった。
終
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