小さな神社のお祭りだというのに、人の数はとても多く、出店もたくさんあった。 待ち合わせ場所に少し早めに到着すると私は辺りを見渡す。
浴衣、変じゃないかな? 髪は大丈夫かな? 普段気にならないようなことが気になってしまう。
身なりを整えていると聞きなれた声がした。 低くて、でも安心できる大好きな声。
「待ったか?」
「いえ!」
「そうか…じゃあ行くか?」
「はい。」
土方さんの少し後ろをついていくように歩くと彼の速度が落ちる。 どうしたのかなと覗き込むとどうやら私の速度に合わそうとしてくれたようだ。
隣に並んで歩けることがまだ信じられない。 思わず見つめていると土方さんが口を開いた。
「すげえ人だな。」
「はい。だいぶ賑わってますね。」
「はぐれるなよ?」
そう言って笑う彼は大人っぽくて。 子供扱いされているみたいで少しだけ悲しくなる。
触れそうで触れないぐらいの手の距離が私たちの距離を表しているようだった。
近いけど届かない。
ゆっくりと顔をあげると綺麗な横顔が視界に入った。 私の気持ちを伝えたら、あなたはどんな顔をするんでしょう? 困った顔をするんでしょうか?
「土方さんは…。」
「ん?」
「どうして私をお祭りに誘ってくださったんですか?」
「…。」
勇気をだして思ったことを聞いてみる。 土方さんは一瞬目を丸くして、そのまま視線を逸らして考えるように黙った。 聞いちゃいけなかったのかと思い、私は慌てて謝ろうとすると土方さんが私の手を掴んだ。
「俺が…。」
「?」
「俺がお前と…。」
「え?」
土方さんが何か言いかけた瞬間。 向こうから土方さんと呼ぶ声が響いた。 そこには綺麗な女の人が立っていて、土方さんに笑いながら手をふっている。
「ちょっと待っててくれ。」
そう言うと土方さんは私の手を離し、その人の所へ歩いていった。
誰だろう…。 楽しそうに話をしてる二人はどこからどう見てもお似合いで、どちらかといえば邪魔なのは私の方なんじゃないかって思ってしまう。 ちらりと周りを見れば何人かの女の人達が土方さんを見ていた。 皆、頬を赤らめてうっとりと見ている。
「そうだよね…。」
あんなにかっこいいんだもの。 見とれてしまうのは当たり前だ。 そして、隣にいるべきなのは…あの人みたいな綺麗な人だ。
私はそれ以上二人を見ていたくなくてその場を静かに離れた。
出店があるところから少し離れた場所、河原の近くは人がまばらに居る程度で静かだった。 しゃがみこんで月がうつる川を見ていた。
「土方さん…。」
思いを伝える前で良かったんだと思う。 もしも伝えていたら、きっと土方さんを困らせた。 だってさっきの人、土方さんの大切な人だと思うもの。
もう暗いし、はやく帰ろうかと立ち上がった時だった。 バタバタと大きな足音が近づいてきて、私は思わず振り返る。
「名前!!」
「土方さん…?」
「お前、なんであの場を離れた!?」
息を切らして私の目の前まで走り込んできた土方さんは、普段の落ち着いた雰囲気からは想像もできないぐらい慌てていて。 私は驚いて何も言えなくなった。
「っ…はぁ…はぁ…いなくなったから…誰かに連れていかれたのかと思っただろうが…。」
額に汗をにじませている姿に、私の為にあちこち走りまわってくれたんだと思うと目が熱くなる。
「ごめんなさい…。」
「どうして勝手に…。」
「あの人は…いいんですか?」
「は?」
「さっきの方は、その…恋人なのでは?」
「はあ!?」
私の質問に土方さんが思わず大きな声をあげる。たまたま歩いていた人が驚いてこちらを見るぐらいだった。
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