「それは…あの…会話を聞かれたんじゃないかって。」
「会話?」
「あの時、原田さんに相談していたんです。沖田さんが牡丹餅をお好きかどうかとか…。どんな女性が好きなのか…とか…。」
左之さんに話していたのは僕のことだったの? 僕の為に…作ってくれていたの?
「だから、私が好きなのは…。」
「ごめん。」
もう一度、今度は優しく抱きしめた。
手に入らないだろうと勝手に決め付けて、考えないようにしていたのに。
勝手に嫉妬して、勝手に傷つけて。
僕は何て自分勝手なんだろう。
「僕も、君が好きだよ?名前ちゃん。」
「え?」
「君のことが大切で、傍にいたくて、守りたくて…。」
自分の気持ちに気付かないふりをしていただけなんだ。 誰かの物になるのが耐えられないから。
だけど。
「意地悪言ってごめん。好きだよ。大好きだ。」
一度言い出したら言葉が止まらない。 この手の中にいる君が夢じゃないか確かめるように強く抱きしめると名前ちゃんは僕の着物をぎゅっと握って胸元に顔を埋めた。
「沖田さん…ずっと好きでした。」
「僕も。」
これからは僕が絶対に君を守るからね。
そう言うと君は真っ白な笑顔をくれた。 なんの邪気もない、綺麗な綺麗な笑顔。
「ねえ、名前ちゃん、今度は僕に食べさせてくれる?」
「え?ああ、はい!」
嬉しそうにお皿の上の牡丹餅を持つ彼女の耳元で
――口移しがいいな。
と言って彼女を真っ赤にさせていると。
「おい平助、押すなって!」
「総司何してんだよ!!」
「新八、平助。野暮なことすんなよ。」
「その通りだ。人の恋路を邪魔するものはだな…。」
「そう言う斎藤も殺気がすげえぞ。」
隠す気はないのかなってぐらいの声が襖の外から聞こえてきた。
「ねえ、名前ちゃん。続きは後でね。ちょっと僕、変な虫を数匹片付けてくるからさ。」
「え?沖田さん?」
腰の刀に手をかけて勢いよく襖を開くと案の定目の前にあの人達の姿があったから。 にこりと微笑んで刀をぬいてあげたんだ。
この気持ちの名前を 僕は知ってしまった。
これからは君の傍で、君と一緒に生きていきたい。 誰にも邪魔なんて…させないからね?
愛してるよ。名前。
終 next→あとがき
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