バシャバシャと雨音とは違う音が聞こえた。 その音はどんどん近づいてきていて私は音の方を向くと外へ続く穴が急に暗くなった。
「名前!!!」
「っ!?」
そこには穴を覗き込む平助が立っていて私は動けないでいると平助がかがんで遊具にもぐりこんでくる。
「あ…え…?」
「お前やっぱりここにいるのな。小さい時から変わらねえ。」
「えっと…。」
「約束の時間になっても来ない。家に行ってももう出かけたって言うし、携帯は繋がらねえし…ってか昨日から俺の電話にでないし!!」
「ごごごごごめっ…。」
次々と放たれる言葉に思わず謝りそうになる。 すると平助が眉をハの字にさせて悲しそうな顔で私の目元を指でなぞった。
「…一人で泣いてるし。」
「それは…。」
「俺のこと、嫌いになった?」
「え?」
「嘘ついて出かけて…俺のこと嫌いになったよな…。」
嘘つかれたのはショックだったけど。 平助のことをそれで嫌いになんかなってないから驚いてしまう。 むしろ好きだから泣いてるのに。
「俺、お前にこんな顔させたくてあんなことしたんじゃねえのに。」
「どういうこと?」
すっかり涙もひっこんで普通に会話できるようになった私は首を傾げて問いかける。 すると平助は真っすぐに私を見て大きな声で言った。
「あの!あれは!浮気とかそんなんじゃなくて!!!」
「?」
「今日が…その…記念日だったから。」
そう言いながら平助はパーカーのポケットをごそごそさせると小さな箱を取り出した。 その箱はそのまま私の手の中へ移動する。
小さなリボンがついていてそれをするするととくと箱の中から綺麗なペンダントがでてきた。 今日の雨みたいな、雫型のペンダント。
「お前に何かあげたいと思ったんだけど、俺どんなのあげればいいかわかんなくて、千鶴に相談したんだよ。で、一緒に行ってもらったんだ。」
ああ。 あれは千鶴ちゃんだったのか。 一瞬しか見えなくて気付かなかった。
「内緒にしておきたくて嘘ついた。本当にごめん!!!」
手を合わせて思い切り頭下げて。 ああ、やっぱり平助は昔から変わらないね。 絶対謝ってくるんだもん。
今回は…ううん、今回もちゃんと話を聞かなかった私が悪いのに。
「ううん、私がちゃんと話を聞かないから…。」
「誤解させて泣かせたんだ、俺が悪いだろ。」
そう言って平助は私を引っ張ると自分の腕に閉じ込める。 ザーザーという雨音と、ドクンドクンと響く鼓動が心地いい。
「それ、貸して。」
そう言うと私の手からペンダントをとった平助は私の首にそれをかける。
「…っと…できた。」
きらりと光るそれが何だか自分を大人っぽく見せてくれる気がする。 うん、このペンダントが似合うような人にならなくちゃだね、私。
「ありがとう!平助。…ごめんね?」
「俺も。ごめんな?」
「私、すごく嬉しいよ。大事にするね。」
「ははっ。そうやってすぐに機嫌がなおるのも昔から変わらねえ。」
「ちょっと!すごく単純みたいじゃな…。」
私の言葉は柔らかい感触に吸い込まれた。 やたら耳につく雨音と自分の鼓動。
「可愛いって言ってんの。」
ニッと至近距離で笑われて、ああもうやっぱり敵わない。
「よっしゃ!じゃあ記念日、今から楽しもうぜ!…とりあえず飯食うぞ〜!!」
「へっ平助!!!」
パッと離れて遊具から楽しそうに出ていく平助になんだか悔しくなって。 私は急いで彼の後を追いかけた。 相合傘になるんだ。思い切りくっついてドキドキさせてやるんだから。
覚悟してよね?
終
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