偽恋ゲーム | ナノ

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「夏だー!海!キャンプ!お祭り!!!」

「妄想はそれぐらいにしておけ。始めるぞ。」

「うわぁぁあん!一の意地悪!」

確かに季節は夏だ。
だからといって会って早々これはあるだろうか。
部屋に入ってきた真尋はコンビニで買ってきたのであろうジュースを二本高々と掲げて俺に叫んだ。
…のを適当にあしらったところ感情は違えどまた叫ぶ。

「静かにしろ。俺の家だぞ。」

小さくため息をつき、彼女から飲み物を受け取るとテーブルの上に並べる。
そこにはすでに参考書と課題が準備されていた。


「冷たい…。やだやだやだぁ!一待って!まだ心の準備が…!」

「待てぬ。今やらなくてはあんたはいつになっても…。」

「だからって…こんないきなり…。」

「いきなり?わかっていて来たのだろう?俺の家に来るということはそういう…。」

「うわぁ…なんか台詞だけ聞くとやらしいね、一君。無理強いはよくないよ。」

「っ!?総司!!!」

「何が?」

「無自覚ってたち悪いね、真尋ちゃん。」


ひょっこりと真尋の後ろから顔をだしたのは総司だった。
どういうことだ?総司が来るとは一言も聞いていない。
…まて、真尋も飲み物は二本しか買っていない…ということは。


「そこで会ったからついてきちゃった。一君のことだから夏休み初日から課題やるだろうし、一緒にやろうかなーって。」

「…写すのは一緒にやるとは言わんぞ。」

「わかってますよ。」

「もう最悪だー!夏休み初日から彼氏様は右手に参考書、左手に問題集。挙句の果てにお邪魔虫までいるなんてー!!!」

頭を抱えるようにしてテーブルに突っ伏す姿は見慣れたものだがつい笑みがこぼれる。
なんだかんだいってあと数分もすれば真剣に課題と向き合うのだ、こいつは。

初日から課題を始めてしまえば夏休みの後半は自由だぞ。
と、告げたところで疑いの眼差しを向けてくる。

「どうせ次は受験勉強だもん。」

「…祭ぐらいは付き合ってやる。」

「え!?ほんと!?ほんとに!?」

「へぇ、雨でもふるよ、当日。」

「黙れ沖田!一の気が変わらないうちに…!!」

そう言うと真尋は携帯と手帳を取り出し近くの祭の日時を調べて約束をとりつけてくる。こういうスピードをどうして勉学に生かせぬのだ…解せぬ。

三人分のコップを取りにキッチンへ向かい、適当な菓子を見繕って部屋に戻ると二人の背中が見えた。…近くないか?
確かさきほどは俺の隣に総司がいたはずだ。わからない問題でもあったのか移動したのだろうが…。

向かい合わせのままでも問題は解けるだろう。

二人の間を割るように入りコップをテーブルに置いた。
真尋はびっくりしたと声をあげたが総司は目を丸くした後すぐに笑った。…嫌な笑い方をするやつだ。

「はいはい、戻りますよ。」

「何がだ。」

「これ以上近づくと部屋を出てけって言われそうだし?」

「ちょっと沖田!まだ途中だから!これ教えてから戻ってよ!!」

――空気を読めない彼女は苦労するね。

確か前に総司がそんなことを言っていたが…。
その通りだと実感しため息が出た。


「俺が教えてやる。どの問題だ。」

「え?あ、これこれ。」


本当に何も考えていないのか、真尋はこういうことが多々あった。
本人が気付いていないのがたちが悪い。

だが何より俺の心を複雑な気持ちにさせるのは…。
自分自身のこの独占欲だ。
今までそんなものが自分の中にあるなんて思ったこともなかった。
なのに…。

こいつに余計な虫を近づけたくないのだ。
総司でさえ近づけたくない。(いや、総司だからか?)
まさか自分がこんなにも…誰かに執着するとは思わなかった。

「はじめ!一!!!聞いてる?」

「!?あ…すまない。」

「だから、これがここに反応するの?」

「そうだ。わかるじゃないか。」

「へへーん。一が教えてくれるようになってから化学好きになったもんね。」

へらりと笑うのはどちらかといえば間抜け面なのだが(本人には言えぬ)それすら心があたたかくなるのだ。
俺はもうどうかしている。

「真尋ちゃん、勉強好きになったの?平助が泣くね。」

「ははは!スーパー真尋ちゃんと呼んでくれたまえ!!」

…どうしてこんな奴を好きになったのか…時々自分でもわからなくなるが。


一時間ほど課題を進めたところで休憩することになった。
あ!と何かを思い出したのか真尋が声を上げる。


「一!もう一つ行きたいところがあった!」

「…課題が終わってからにしろ。」

「だめだめ!日にち決まってるもんこれ。」


そう言ってカバンから取り出したのは大学のオープンキャンパスのちらしだった。
俺は去年行ってしまったがこいつのことだ、去年は行っていないのだろう。

「真尋ちゃん、一君と同じ大学行くつもり?無謀にもほどがあるよ。」

「うるさいなー!同じ学科は無理だけど同じ学部の他の学科はまだ狙えるって土方先生言ってたもん。」

「え?本当に?」

「…総司、一応こいつも努力して最近めきめき成績を上げている。」

「へえ、愛の力は偉大だね。」

「でしょー!!」

言葉に詰まる俺と対照的な反応を示す真尋に総司もやれやれといった感じでチラシを見ていた。日付は明後日。これは課題の後というわけにはいかないな。


「だめ?予定あるなら一人で行くけど。」

「問題ない。俺は一度行っている故、案内もできる。」

「やった!じゃ連れてってね。」

「ああ。」

嬉しそうにチラシを見る横顔にまた笑みが浮かびそうになる…のを必死で抑えた。
ちらりと総司を見れば頬杖をついてニヤニヤしているではないか。
本当に部屋から追い出してしまおうかと考える前にすっと視線を逸らすこいつにはきっと敵わないのだろう。

そして俺達はそのまま課題を進めたりたわいもない話をして夏休み初日を終えたのだった。






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