▽ 1
ご飯を食べてお風呂入ってゲームして寝る。
これだけすればすっきりさっぱり忘れるはずだ。
…って思っていたのにね。
あれから私と斎藤は元に戻った。
それはそれは以前のようにただのクラスメートに。
会話することも、お昼を一緒に食べることも、帰りにどっかに寄り道することもなくなった。
きっと周りもうすうす感じたと思う。斎藤ファンクラブもまた息を吹き返したらしい。
そして日曜日。
家からどころか部屋から一歩も出ず、何故か私は机に突っ伏してぴくりとも動かなかった。
ちらりと視界に入るのは猫のぬいぐるみ。
ああ、斎藤がとってくれたんだっけ。
あの頃は何とも思っていなかったんだよね。
リズムゲームでこてんぱんに叩きのめす私は女子としてどうなの。
どうもこうも最初から女子と認識されていたかも怪しいけれど。
そのぬいぐるみの首にぶらさがっているのはネックレスだった。
斎藤からの誕生日プレゼント。
あれ以来つけていない。
つけられるわけがないんだ。
本当は二つともさっさと捨てるべきだ。
前の私だったらそう言うだろう。そして行動できただろう。
なのに、それができない。
前にできたことができなくなるなんてことがあるなんて思いもしなかった。
これが恋ってやつなのか。
恋と気付いた時には恋が終わっていたなんてことはよくあるんだろうか。
恋愛小説も読んできた。マンガだってそう。ゲームなんてばりばりやっている。
なのに私は恋を知らなかったんだ。
本棚に視線をずらせばマンガが目に入った。
そういえば斎藤が少女マンガ読んだんだよね。
あの斎藤が。
続きは…どうしようかな。
友達として、貸してあげようか。
それとももういらないだろうか。
小さなため息が部屋に消える。
ずっと部屋にこもっている私をお父さんは心配そうにしていたけど、お母さんは何も聞かなかった。もしかしたら気付いているのかもしれないな。
そんなことを考えているとドアがノックされる。そして返事する前に開いた。
「…ノックの意味を問いたい。」
母「真尋!!」
「何―?」
母「早く支度しなさいよ!お友達来てるわよ!!」
興奮気味に話すお母さんに思わず椅子から転げ落ちそうになる。
友達?約束した覚えがない…。
母「あんた今モテ期なの!?かっこいい子が二人も!斎藤君はどうしたの!?」
「え?は?あの…おかあさ…。」
母「ほら、さっさと着替えなさい!」
それだけ告げると母は勢いよくドアを閉めた。
かっこいい子が二人?
何の話だ。
モテ期ってなんだ、都市伝説じゃないのか。
とりあえず服を着替えてリビングへ向かう。
するとそこには見慣れた顔が二つあった。
沖「あ、真尋ちゃん。やっと来た。まさか寝てたの?」
平「よっ!遊び行こうぜ。」
「沖田と平助…。何で?」
沖「まあいいじゃない。ほら、行こうか。」
平「お邪魔しました!」
母「はーい!行ってらっしゃい。」
呆然と立ち尽くす私を挟むように二人が私の腕を掴んで玄関へと引きずった。
嬉しそうに笑うお母さん、寂しそうに座っているお父さんの背中を見ながら…私は外へと連行された。
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