偽恋ゲーム | ナノ

▽ 1



 「ふふーん。」


千「ご機嫌ね。真尋。」


さっきの授業は音楽だった。
自分達の教室へ戻る途中、私はスキップに近い歩き方で鼻歌を歌う。


 「えへ。今日から新しいゲームするから。」


沖「またゲーム?」


 「この前誕生日にお父さんに買ってもらったんだ〜。新太君がでてるやつの新しいの!はやく帰りたいなっと。」


うふふ。
はやく帰ってゲームしたい。
新太君待っててね!!!


斎「…付き合いきれん。俺は一度職員室へ寄ってから戻る。」


斎藤に何言われたって痛くもかゆくも…。
な…い。


はずだったのに!


胸元にあるネックレスの感触にあの日を思い出してしまう。
私にとって…確実に忘れられない日になったあの日を。


 「…。」


沖「どうしたのー?真尋ちゃん、顔が赤いけど。」


 「え?い…いや、何でも。新太君のこと考えてたからかしらー?」


沖「…千ちゃん。真尋ちゃんがおかしいんだけど。」


千「今に始まったことじゃないでしょう?」


 「おい。」


そんな会話をしながら教室へ戻ろうとした時だった。


 「真尋ちゃん!!」


クラスメイトの女の子が教室のドアのところで私を呼んでいる。
なんだか様子がおかしい。


 「??どうしたの?」


その子に声をかけながら教室へ足を踏み入れた瞬間。
クラスメイトの視線を一斉にあびた。


 「…え?」


千「何よこれ。」


沖「…。」




――廣瀬真尋は嘘をついている。




でかでかと黒板にチョークで書かれた文字。
その周りにも小さくいろんなことが書かれていた。



――あの二人は付き合っていない。


――廣瀬真尋が斎藤一の弱みを握って脅している。


全ての文字に目が行く前に千が黒板の所へ走って文字を消していた。
沖田もそれに続く。


そのまま視線を自分の机にずらせばノートにペンで落書きをされていた。


――斎藤一と別れろ

――嘘つき

――消えろ


他のクラスメイトはどうしていいのかわからないのか、こっちに視線を投げるだけだった。


 「…何これ。」


千「誰よ!こんなこと!!」


沖「僕達は移動教室だったからね、他のクラスか…他の学年か。」


千「信じられないわ!」


必死に黒板を消している千が叫ぶように言った。


 「…ほんとかな?」


 「斎藤と廣瀬って付き合ってねえの?」


 「まあ合わないっちゃ合わないけど。」


 「脅しって…。」


 「どういうこと?」


ざわざわとクラスメイトが話す言葉が全て耳に入ってくる。


確かに私達は付き合ってないけど。
私が斎藤を脅すなんてこと…。


沖「それにしてもすごいよね。一君のファンは。」


 「沖田?」


黒板の文字を消し終わった沖田が私の席にくるとノートをペラペラとめくって言った。
少し大きめの声にみんな話すのをやめる。


沖「暇なんだろうね。まあ気にすることないよ真尋ちゃん。」


 「えっと…。」


沖「だいたいさ、もっと考えて書くべきだと思わない?一君が真尋ちゃんの弱みを握るならともかく、真尋ちゃんが一君の弱み握って脅すなんて百年かかっても無理でしょ。」


 「ちょ!!!」


ニッと笑いながら言う沖田にクラスメイトが反応をする。


 「確かに…。逆はありえるけどな。」


 「真尋ちゃんがそんなことするはずないよね。」


 「廣瀬じゃ斎藤の弱みなんて握れないだろ。」


 「ファンクラブって怖いね。廣瀬さん気にしちゃだめだよ。」


千「そうよ!気にしちゃダメよ!!!」


千が私の手を掴んでぶんぶんとふる。
私は勢いに思わず頷いた。


沖「そろそろ一君戻ってくるし。とりあえず伝えて…。」


 「いい!」


千「え?」


 「斎藤には言わないで。あいつには…関係ないから。」


沖「関係ないって…。」


 「だってこんなことされたって言ったらあいつ気にするじゃない。斎藤のせいじゃないのに。…これぐらいたいしたことないし、今回は秘密ね。」


まだ何か言いたそうだった千と沖田だったけど私が笑うと二人とも頷いてくれた。
どうやらクラスメイトも納得してくれたらしい。


そのまま私達は次の授業の準備をしてそれぞれの席に着いた。

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