偽恋ゲーム | ナノ

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「大きい!やっぱり大学って違うねー!」

「そうだな。」

制服姿の俺達はだいぶ目立つのだろう。ちらちらと視線を感じた。
私服でも良かったのだが真尋が考えるのが面倒だと言い制服にしたのだ。
しかし、俺は無理にでも私服にさせるべきだったと後悔することになる。


「あんたも工学部に行くつもりなのか?」

「工学部といっても生命科学!これなら私もがんばれそうだし、楽しそうだし、一とキャンパス一緒だよ!イェヤ!」

「拳を揚げるな。…まああんたは生物は好きだったな。」

「うん!」


建物に入るとまた一段と騒ぐ真尋を抑え、俺達は会場へと進んだ。
高校とは違う広い教室にすでに百人以上の人が座っている。


「すごい…こんなところに来年私はいるのかな?」

「いるのだろう?俺とあんたは。」

「…一は確実だけど私…。」

「俺があんたも連れてってやる。」

「…。」

別に何かを思って言ったわけではない。ただ自然とでた言葉だったのだが真尋が固まって動かなくなった。

「どうした?」

「一ってさ…ほんと時々乙女ゲームの中にでそうな台詞言うよね。」

「…知らん。そんなゲームはしたことがない。」

そんなことを話しているうちに説明会が始まった。
学部全体、それぞれの学科について教授や在籍している生徒の話を聞くことで真尋も大学のイメージがついたらしい。やっぱりここがいいと小声で俺に伝えてきた。
説明会の後はキャンパス内をある程度自由に見学していいと告げられ、俺達は少し歩いて回ることにした。


「わー。なんか実験してるよ。ロボット?」

「機械科だろう。あんたの行きたい生命科学はあっちだ。」

生命科学科は女子も多い。
白衣を着た女の先輩に声をかけられ真尋は色々質問していた。
じっくり話を聞きたいだろうと思い俺は他の所を回ることにした。


自分の目指す学科を見終わり、真尋を迎えに行ったのだが姿がない。
先ほど話していた先輩に聞くととっくに他の所へ行ったという。

「すれ違ったか。」

行ける場所は限られてる、そう思い探し始めると思いのほか早く見つかった。
ある研究室から声がしたからだ。


「わー!女子高生じゃん!制服いいね!工学部くるの?!」

「私生命科学ですけどね、志望は。」

「それでも貴重だよー!女子少ないんだから。」

「そうなんですか?」

ドアは開いたままだったので覗きこむと真尋を囲むように男子学生が四、五人立っていた。

「工学部って九割男子だからさ。男子校みたいなもんだよ。」

「へえ…でも楽しそうですねそれはそれで。」

「まあそうだけど。俺達電子情報系の研究室。ゲームのプログラマー目指しててさ。」

「ゲーム!?」

「え!女子高生がそこにくいつく!?」

「君おもしろいね。」

こんなんやるんだよとパソコンを見せられ覗きこんでいる。
周りの先輩方は純粋に説明してくれているのだろうが…、いや、女子高生にくいついている時点で純粋とは言えぬ。

「真尋。」

「あ!一!どこいってたの。」

手を掴み引き寄せるとまるで俺が迷子だったかのような言い方だ。

「あんたを探してたんだ。」

「同じ高校の子?君も見てく?」

「一!すごいよ!ゲーム作るんだって!!」

「…帰りのバスの時間があるので、これで。」

「え!?一!?」

「残念。二人とも、がんばってねー。」

にこにこと見送ってくれる先輩達に軽く頭を下げ真尋の手を掴んだまま玄関へ向かう。
外に出てしばらくしたところで今度は俺が引っ張られた。

「ちょっと!バスの時間って何?!うちら電車じゃん。」

「知っている。ああでも言わないと出にくかった。」

「なんでそんな急ぐ必要があるの。」

俺が不機嫌な理由が本当にわかっていないようだ。
まあわかるようならあんな風に一人で研究室になど入らないだろう。

「…あんたは。一人でほいほいと入っていくな。あそこは見学していい場所ではない。」

「そうなの!?おいでって言われたから…。」

「だからといって確認せず行くな。…何かあったらどうする。」

「何かって?」

「工学部はほとんどが男だ。あんたは女なのだから少しは警戒しろ。」

「ええ!?」

間違ったことは言っていない。大げさかもしれないが変な奴がいないとは限らないのだ。
ミニスカートの女子高生につい出来心で…となってもおかしくない。

「一…やきもち?過保護?おかん!?」

「最後のは訂正しろ。」

「あはは。大丈夫だよ。相手もちゃんと選ぶよ。私みたいなの選ぶ物好きって一ぐらいだよ。」

けらけら腹を抱えて笑うこいつには危機感というものが全くないようだ。

俺はこの先ずっと…このような心配をしなくてはいけないのか。
どうしたらこいつは警戒心を持つようになるんだ。



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