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ファミレスからの帰り道。
綺麗な夕焼けが見えて辺りはオレンジ色になっていた。
「斎藤…怒ってる?」
「何をだ?」
今日出た数学の課題を一緒にやる為、私は斎藤と二人で帰っていた。
もう最近は斎藤がうちで夕ご飯を食べていくことも珍しくない。
お母さんはお気に入りだし、お父さんも仲良くなっている。
まあ…それはいいんだけど。
歩き出して五分、会話らしい会話が続かなくてついに聞いてしまった。
「みんなに言っちゃったからさ。付き合ってるとか…告白のこととか…。」
「…。」
小さく横からため息が聞こえてきて心がそわそわする。
だって…怒ってたり、呆れてたり、ましてや嫌われたらどうしよう!?
すぐに謝ろうと口を開く前に斎藤が話し始めた。
「別に隠すことでもない。隠す気もない。」
「へ?」
「いずれわかることだ。それに…。」
「それに?」
斎藤が話すのをやめてこちらを見る。
どうしたんだろう?
何かついてるの?私。
「何もついていない。」
「ねえ、心の声本当に聞こえてるんじゃないの?」
「そんなことできるわけがないだろう。あんたは相変わらず頭の中がマンガかゲームの世界だな。」
「もー!いちいち腹立つなあ!で、それに何よ?」
「…前のように周りが知っていたほうが良い…と思っただけだ。」
「え?何で?」
本当に付き合ってなかった時みたいにってこと?
でもあの時は斎藤が恋愛をしたくないからってことで付き合ってるふりをあえてみんなに知らしめるようなことをしてたけど…。
本当の恋人になった今、別にそんな必要…
あ、でも公認のほうがやっぱり斎藤に近づいてくる女子が減っていいのか。私としては。
そんなことを一人悶々と考えていると斎藤に頭を小突かれた。
「何を一人で考え込んでいる。」
「え?あー…付き合ってるってみんなに知ってもらっていたほうがいいかなって。斎藤モテるし。」
「…あんたも少しは自覚しろ。」
は?
え?
じ・か・く?
「何を?」
「…あまり気軽に他の男に触るなってことだ。」
「え?触った?」
「平助の頭を撫でたり、総司の腕も掴んでいたぞ。」
平助の頭を撫で…た?
沖田のことなんて掴んだっけ?
記憶にないよ、そんなこと。
「覚えてない。」
「だろうな。」
「え!?そんな無意識ってわかってたらいいじゃん。」
「あんたは男女問わず態度が変わらないのはいいことだが…相手がどう捉えるかまで考えろと言っている。」
「どうせ何も思ってない…。」
「とは限らないだろう。」
「うーん…。」
あれ?
これって、もしかして…心配!?妬いてる!?
まさか!!まさか!?!?
「明日は雨だ…雨なんだ。」
「…どういう意味だ。」
「だって斎藤!それって心配してるんだよね!?ヤキモチ!?ヤキモチ!?!?」
「課題は手伝わずに帰ってもいいんだな?」
「嘘です。すみません。調子のりました。」
くぅ…こんなことだからいつまでも頭が上がらないんだ。
少しは私も上になりたい!!
「それから…。」
「どうしたの?」
「…名前。」
「へ?名前?真尋ですけど。」
「馬鹿か、あんたは。そんなことは知っている。そうではなくて…その…何故あんたは俺のことを名字で呼ぶのだ?」
「え?」
言われてみれば…斎藤のことは名字のままだった。
恋人のフリをしているときはあえて名前で呼んでいたりもしたけれど、二人の時は名字だったし…それがそのままってだけで。
あれ、でも斎藤は。
『真尋。』
私のこと、名前で呼ぶようになった。
…あれ。なんか気付いたら…恥ずかしい!
「えっと…そういえば…そうだね。」
「あんたはこれからも俺のことを名字で呼ぶつもりか?」
「え!?あ…いやーその…。」
改めて名前にしろって言われると…照れる。
斎藤の方を見るとじっとこっちを見ていて…何で私だけ照れなきゃいけないの。
「真尋。」
「あーはいはい!呼びますよ、呼びますとも。これからは。」
「これからは?」
何よその楽しそうな表情は。
今言えってか。今言えっていうのか。
簡単なことなのにこういう風に言われると言いづらくて、思わず下を向いたまま呟いた。
「は…はじ…一。」
「よくできたな。」
ぽんぽんと頭に手の感触を感じた。
「ば…馬鹿にして…!」
文句の一つも言ってやろうと思ったのに、顔をあげたらものすごく優しい表情の一がいたから何も言えなくなってしまった。
少しは何かしてやりたいと、横を歩く一の手を握ると。
「…。」
冷静を装ってるけど顔が赤いのは夕日のせいじゃないと思うから。
許してあげてもいいかななんて…笑みが零れてしまった。
―やっと…恋人になれたね。―
(一、歩くのはやい!!!)
(仕方ないだろう。早く帰って来いとメールが来ている。)
(え?メール?誰から。)
(あんたの両親だ。)
(いつの間にメアド交換を!?!?)
終
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