偽恋ゲーム | ナノ

▽ 2



授業終了のチャイムが鳴り、昼食の時間になった時。


土「おい、斎藤。」

斎「はい?」

土「お前、後で職員室来い。」

斎「…はい。」


土方先生にそう言われ、俺は職員室へ向かうことを総司に告げようとしたが、すでに姿がなかった。


斎(購買か…?)


職員室へ向かう途中で購買へ寄り、総司を探した。
総司はどこへいても目立つから探すのには困らないのだが…。


その見慣れた後姿が何かを覆うように抱きついているのを見た瞬間、俺は目を疑った。


沖「っとと…。」


総司の肩を掴んで思い切り後ろへ引っ張ると不機嫌そうに振り向いたが、俺の姿を見て一瞬だけ目を丸くしていた。
そして、すぐにいつもの表情に戻る。


斎「やめろ。総司。」


沖「あれ、一君。どうしたの?」


総司の後ろで廣瀬が俺を見ていた。
久しぶりにこんなに近くで見た気がする。


斎「どうしたのではない。あんたを探していたのだ。」


沖「ふーん。真尋ちゃんと楽しく話してたんだよ。」


ねえーと同意を求めるように廣瀬に笑いかける総司に苛々する。


斎「…廣瀬は楽しそうに見えなかったが。」


沖「あーあ、一君に邪魔されちゃったなぁ。」


斎「邪魔?」


沖「そんなに眉間に皺寄せてさ。気にいらないなら言えば良いんじゃない?」


 「え?沖田?」


どうやら総司が俺に言ったことは本気らしい。
廣瀬のことを好きだとでも言うのだろうか?
いや、総司はただ、楽しんでいるようにしか思えん。


斎「…あまりこいつをからかうな。」


 「斎藤?」


久しぶりに名前を呼ばれ、少しだけ心臓が跳ねた。


沖「一君。僕だから怒ってるの?抱きついたのが平助君だったとしても気にいらないんじゃないの?」


 「え?あのー…もしもし?」


平助だったとしても?
当たり前だ。
気にいらないに…決まっている。


千「お待たせ―。あれ?沖田君、斎藤君。一緒に食べるの?」


 「えーと…。」


ぴりぴりした空気が一気に壊れた。
ちょうど良かった。俺は総司に職員室へ行くことを告げるとそのまま購買から離れた。



職員室のドアを開けると真っ直ぐに土方先生の所へ向かう。
俺の気配を感じ取ったのか声をかける前に土方先生が振り向いた。


土「おぉ、飯は?」


斎「まだですが…。」


土「そうか。じゃあ手短に言うが…お前最近何かあったのか?」


斎「何か、と言いますと?」

俺の返しに土方先生がわかっているだろうと言わんばかりの表情でため息をつく。

もちろん自覚しているつもりだ。
おそらく土方先生が言いたいのは俺の成績と部活についてだろう。

土「最近テストでもミスが多いし、部活も本調子じゃねぇだろうが。わかってんだろ。」


斎「…すみません。」


土「とはいえ、成績は相変わらずトップだし、剣道だってまだまだ周りの奴はお前に敵わねえ。本来ならお前の成績で呼び出すなんてありえねぇんだが…様子がおかしいのを教師として見過ごすわけにもいかねぇからな。」


斎「…。」


土「私生活に口出すつもりはねぇが…。」


斎「土方先生。すみませんでした。大丈夫です。」


土「斎藤…。」


斎「少し…少しだけ体調が良くなかっただけです。もう大丈夫ですから。」


はっきりと言い切る俺に土方先生は言いかけた言葉を飲み込んだ。


土「わかった。もう戻っていいぞ。」


斎「はい。」


礼をして俺は職員室を立ち去った。


斎「…っ!」


もう少しで壁を叩いているところだった。
ぎりぎりのところで理性が止める。

何が体調不良だ。
俺は…


たくさんの人を巻き込んで、そのくせ自分自身でさえ報われてない。


斎「何一つ、うまくいってないではないか。」


何も食べる気にもなれず、俺はそのまま教室へ戻ると席について目を閉じた。

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