偽恋ゲーム | ナノ

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沖「…はい、平助君ダッシュ。」


平「は?」


沖「真尋ちゃん追いかけて。送って。あれは絶対一人で泣くから。」


平「え?え?」


沖「はーやーくっ!」


バンッと平助君の背中を叩いて教室から追い出した。
そのまま窓際まで移動して適当な机に座る。


しばらくして廊下から足音が聞こえてきた。
誰だかすぐにわかるよ。
長い付き合いってこういうとき便利だよね。


沖「おかえり、一君。」


斎「平助は…廣瀬と帰ったか?」


沖「うーん…正確に言えば、泣きそうな顔した真尋ちゃんが教室を飛び出して、僕が平助君に後を追わせた…かな。」


そう言いながら校庭を見ればどうやら真尋ちゃんに平助が追いついたらしい。校庭のすみっこで二人立ち止まって何か話をしていた。


沖「ねえ、終わりにするってどういうつもり?」


斎「どういうつもりも何もない。そのままの意味だ。」


沖「へえ…僕はてっきり一君が真尋ちゃんを好きになったと思ってたんだけどな。」


斎「…。」


沖「何でいきなり言いだしたの?終わりにするなんてさ。」


一君は外の二人を見ながら口を開いた。


斎「あいつは、平助が好きなのだ。」


沖「…は?」


どこをどう見ればそういうことになるわけ?
いや、確かに真尋ちゃんのタイプは平助君だろうけどさ。
どう考えても最近の真尋ちゃんは一君のこと気にしてたでしょ?


斎「あいつが先ほどそう言っていた。」


沖「…ねえ、もう一度それ確認した方がいいと思うんだけど。」


斎「それに。」


僕の言葉を遮るように一君が続ける。
真っすぐにこっちを見てくる青い目に思わず僕は話すのをやめた。


斎「あいつに迷惑をかけるのはもう嫌なのだ。俺と一緒にいたら…また何かあるかもしれない。本当に付き合っているわけでもないのに何故あいつが傷つかなくてはいけないのだ。」


沖「ねえ、一君。」


僕が呼びかけると一君は話すのをやめてくれた。


沖「君の気持ちはどうなの?一君は真尋ちゃんのこと、どう思ってるの?」


斎「俺は…。」


沖「もうさ、好きなものを好きじゃないふりするのやめたら?」


斎「っ!?」


沖「何も残らないんじゃない?」


一君は下を向いて何か考えているようだった。多分一君自身も確信していないんだ。
でも、このまま終わりにするのは気にいらないよ、僕としては。


沖「一君が真尋ちゃんと偽恋やめたなら、僕が狙ってもかまわないよね?」


斎「総司!?」


僕がこんなことを言うとは全く思っていなかったんだろう。一君が勢いよく顔をあげて僕を見た。


沖「真尋ちゃんおもしろくて飽きないし。良い子だもんね。」


斎「だめだ。」


沖「どうして?平助君はいいのに?」


ちらりと外を見るとまだ二人の姿が見える。
うん、平助君がうまく話を聞いてあげてるのかな?時々頭を撫でているように見えた。


斎「平助は…遊びで付き合うような奴ではない。」


心外だなぁ。一君は僕が遊びで彼女と付き合うって言っていると思ってるんだ。
まぁ、日ごろの行いが悪いから仕方ないけど。


沖「一君なら、僕が本気で言っているかどうかぐらいわかると思ったんだけど…。まぁどっちでもいいや。だって一君はもう彼氏じゃないんだし。」


僕も帰るよと告げて荷物を肩にかける。
一君は外を見たまま動かなかった。
僕はその背中をしばらく見つめて、教室を出た。




―――――――――――――――――――――




平「待てって!真尋!!!」


 「っ…。」


急いで帰ろうとしていたのに平助に捕まった。足速すぎるよ平助。


平「あの…大丈夫か?」


平助の大きい目が不安そうに揺れている。
そこに映る私の顔はひどいものだった。


 「大丈夫…。」


平「じゃ、ねえだろ?」


ぽんぽんと頭を軽く叩かれて一気に視界がぼやけてしまった。


 「ごめ…。」


平「いいっていいって。」


それ以上平助は何も言わなくて。
だから余計に涙が止まらなかった。
多分訳が分からなくて戸惑ってるはずなのにね。
いや、もうわかってるかな。私が斎藤のことを…。


戸惑っているのは私の方だ。


何で、どうして?
それしか出てこないんだから。

私何かしたのかな?
それとも斎藤に何かあったの?

違うよね。何かあったなんてことはない。
最初から何もなかったんだ。



胸元のネックレスを掴んで下を向いた。
校庭の砂にぽたぽたと雫が落ちて色が変わる。



最初から何もなかった。
最初からあいつは何も思ってなかった。
そもそもそういう契約だったじゃない。
面倒だって思ってたのは私もなのに。


こんな気持ち…嘘だ。
こんな気持ちは嘘なんだ。


平「真尋…?」


ゴシゴシと涙を拭って顔を上げた。
大丈夫。
真尋ちゃんのこの気持ちは気の迷い。
ゲームみたいなことが現実に起こったもんだから舞い上がってただけだもん。


 「大丈夫大丈夫!リセットボタン押せば元通りだから!!」


平「は!?何の話!?」


 「平助ー!!何か食べにいこ!お腹すいたー!」


平「お…おい!待てって!!」


くるりと踵を返して校門の方へ向かう私を平助が慌てて追いかけてきた。


お腹一杯何か食べて、のんびりお風呂入って、ゲームしよう。新太君に会えば一瞬でドキドキできるはずだ。



そうだよ。



この気持ちは偽物なんだ。



つづく




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