偽恋ゲーム | ナノ

▽ 3



気がつくと見慣れない天井が目に入った。
そのまま視線を横にずらすと綺麗な青い目とぶつかる。


 「さいと…?」


斎「気付いたか。保健室だ。」


保健室?
あれ?さっきまで平助と廊下にいたはずなのに。


私の気持ちが顔に出ていたのか、斎藤は淡々と答えてくれた。


斎「あんたは廊下で倒れたのだ。山南先生は疲れだろうと言っていた。…起きれそうか?」


そう言われてゆっくりと起き上がる。
特に気分も悪くないしこれなら帰れそうだ。


 「大丈夫だと思う。」


斎「そうか…。」


斎藤が安堵の表情を浮かべる。いつからいてくれたんだろう?
時計を見るとまだ職員室を出てから時間はそんなに経っていないみたいだけど。


斎「最近眠れなかったのだろう?すまなかった。」


 「だから、斎藤のせいじゃないってば。」


斎「いや、俺に責任がある。あんたを巻き込んでしまった。」


 「もー!解決したんだし、その話は終わり!」


そう。
嫌がらせのことなんて正直もうどうでもいいんだ。
それよりも…今は。



斎藤の気持ちが知りたいんだって。



ちらりと斎藤を見ればまだ少し心配そうにこっちを見ていた。



何でキスしたの?…はストレートすぎ?
私のこと、どう思ってるの?…ってそれもストレートすぎるだろ!


うう…こういう時恋愛経験がないとどうしていいのかよくわかんな…。


斎「廣瀬。」


 「はい!?」


斎「…終わりだ。」


 「は?」


斎藤が伏し目がちに呟いた。
終わり?何が?


斎「この関係を終わりにしよう。」


誰もいない保健室に響いた斎藤の少し低い声。

この関係を終わりにする?
どういう…こと?


斎「今からはただの友人で。いや、それが難しかったら以前のように戻っても良い。ただのクラスメートに。」


 「斎藤?」


斎「いろいろ迷惑をかけた。世話になった。」


 「斎藤!?」


斎「俺は山南先生に報告してくる。あんたは早く家に帰れ。教室に総司や平助がいるはずだ…平助に送ってもらうと良い。」


 「え?あの…?え?」


斎「俺はこれで。」


斎藤はそう言うと静かに立ち上がりスタスタと保健室を出ていった。
おそらく職員室にいる山南先生のところへ行ったのだろう。


取り残された私は、え?え?とひとり言をつぶやくことになる。



この関係が終わった?
偽物の恋人が、終わった?


考えたいのにうまく頭が働かない。



私はぼんやりと教室へ足を進めた。
近づくと教室から声がして沖田と平助がいることがわかる。


沖「あ、おかえり。」


平「大丈夫か!?真尋!」


 「う…ん。」


私の様子にまだ具合が悪いと勘違いしたのか、平助が心配そうに送ってやろうか?と言ってくれた。


沖「何言ってるの、平助君。それは一君の仕事でしょ。」


平「あ、そっか。あれ?一君は?」


 「大丈夫。一人で帰れるから。」


沖「真尋ちゃん?」


 「終わったの。」


平「?何が?」


 「偽恋ゲームは終わったの。」


そう言った私はうまく笑えてるんかな?
沖田の顔を見る限り、どうやら下手くそらしい。


 「うちらはもう恋人ごっこは終わったの。で、前みたいに戻るんだって。終わりにしようって言われたから。」


平「真尋…。」


 「と、いうことで。真尋ちゃんは今日は帰るよ。家で新太君が待ってるし!」


机に置かれた荷物をとると私は二人に笑ってみせた。


 「また明日!今日はごめんね!」


それだけ言って教室を飛び出した。
ごめん、二人とも。
これ以上いたら、泣いてしまうから。

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