▽ 4
斎「阿川…。」
「阿川さん?」
阿「な…何で?」
教室を出ようとしていたのは阿川さんだった。確か斎藤と同じ風紀委員で、ものすごく可愛くて、そして…多分斎藤のことを好きなんだ。
私も彼女も動けないまま、互いに見つめていると斎藤がスタスタと私の席に歩いていき机の中から手紙を取り出した。
開けると案の定、パソコンで作られたであろう嫌がらせの文章が書かれていて斎藤が眉をひそめる。
阿「あの…。」
斎「どういうことか説明してもらえるか?」
説明してもらえるかって…言葉自体は普通だけど声色が穏やかじゃない。
彼女も目を伏せてどうしたらいいかわからないようだった。
「えっと…本当に阿川さんが?」
斎「あんたは黙っていろ。」
「は…はい。」
斎「答えてくれ。どういうことだ。」
阿「…どういうことか、私が聞きたいぐらいよ。」
「え?」
顔をあげた阿川さんは切ないような、悲しいような、だけど怒ったような表情で斎藤を見ていた。
阿「今まで学業と部活に専念したいからって誰とも付き合う気はないって言っていたのに。だから…私も諦めようと思えたのに…。」
斎「…。」
阿「私が告白した次の日に廣瀬さんと付き合ったって話を聞いて信じられなかった。だって彼女…見た目は普通だし、その…いつもゲームとかしてるみたいだし…。」
「まあ…それは…。」
否定できませんが。
彼女も何と言って良いのかよくわからないんだろう。ちらちらと戸惑いがちにこっちを見ていた。
阿「それに本当は貴方達付き合ってなんてないんでしょう?」
斎「何故そう思う?」
阿「公園で…斎藤君が子供と会話してるの聞いちゃって…。彼女か聞かれたのに濁してたし、それに貴方達二人の時は名字で呼び合ってた。一緒にいるところもほとんど見てなかったし…だから…何か裏があるって思って…。」
本当だったら彼女に怒りがわいてもおかしくないのに、あまりにも当たっているからどうしていいかわからない。
私が何も言えないのを感じたのか斎藤が口を開いた。
斎「…たとえそこに何か裏があるとしてもあんたのしたことは最低だ。」
阿「っ!」
「斎藤…。」
阿「どうして廣瀬さんなの?どうして…私じゃダメだったの?」
ぽろぽろと泣きだす阿川さんに胸が苦しくなる。だって本当は、彼女だって良かったはずなんだ。偽物の彼女でももしかしたら嬉しかったのかもしれないから。
斎「…少なくとも、こいつは人を見かけや趣味で判断するような奴ではない。」
その言葉に阿川さんの目が大きく開く。
さっき私を普通とかゲーマーと言ったことを思い出したのかもしれない。
斎「そんなところが俺は気にいっている。そして俺がこいつを選んだ。」
「斎藤…。」
斎「もう二度とこんなことはしないでくれ。俺はあんたを嫌いになりたくはない。」
阿「…っく…っ。」
本格的に泣きだした阿川さんにどう声をかけようか迷っているとぐいっと腕を引っ張られた。
斎「帰るぞ。」
「え!?でも…。」
私の荷物までいつの間にか持った斎藤に教室のドアの方まで引っ張られる。
そのままドアを開けようとした斎藤に阿川さんが声をかけた。
阿「待ってよ!本当は付き合ってるの?それとも…付き合ってないのに、こうやって私みたいな斎藤君を好きな子を騙してるの?何考えてるの!?」
そうだよね。
斎藤のことを真剣に好きな子からしたら。
私達のしてることって…最低だ。
でもごめんなさい。
私もあなたと同じで…。
斎藤のことが、
「阿川さ…。」
斎「真尋。」
「え?」
阿川さんに声をかけようとした私を遮るように斎藤が名前を呼んだ。
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