▽ 3
斎「何をしている。」
「斎藤?なんで…。」
斎「風紀委員として見回りしている。用がないならさっさと帰れ。」
つかつかと私の席の方まで歩いてきた斎藤の視線が私の手に向いた。
斎「…何だそれは。」
「え?あ…。」
握りしめていた手紙の文面が見えていた。
別れろと書かれた文字が斎藤の目に入ってしまったんだろう。
勢いよく手紙をとられて斎藤の目が文章を追うように動く。
「あー…あの…。」
斎「どういうことだ。」
「えっと。」
斎「どういうことか聞いている。」
バンッと手紙を机に叩きつけるようにして置くと斎藤は珍しく怒った表情で私に詰め寄る。
こんなに感情を露わにすることなんてなかなかないんじゃない?
斎「最近様子がおかしかったのはこれか?いつからだ?」
「…一週間前から。」
斎「他に何かされたか?」
「毎日こんな手紙がくるぐらいで…あとはメールとか…でも大丈夫。別に直接危害を加えられてるわけじゃ…。」
斎「そういう問題じゃないだろう!」
斎藤の大きな声に思わず目を閉じる。
だってこんなに怒ってるところ見たことがない。
「大丈夫だから。真尋ちゃんはこれぐらい気にするような奴じゃないって斎藤もわかるでしょ?ほら、私そんな繊細じゃな…。」
斎「こんなことをされていて傷つかないはずが…辛くないはずがないだろう!?」
両肩に手を置かれて体が揺れる。
なんで。
なんで斎藤が辛い顔をするのよ。
ほら、だから…知られたくなかったのに。
「千も、沖田も、クラスのみんなも味方だよ。それに斎藤もいるし…。」
斎「どうしてあんたは誰も責めない?どうして…俺を責めない?」
「だって斎藤のせいじゃないもん。」
斎「俺のせいだ。」
「違う。それに…。」
斎「?」
「放っておけばいいじゃん。偽物の彼女なんだからさ。この手紙の通りだよ。そもそもこういうことが面倒だから恋人のふりを始めたんでしょ?」
斎「放ってなどおけるか。俺はあんたの…。」
「え?」
斎「あんたの≪彼氏≫なのだ。今は。」
何…それ。
ずるいよ、そんなの。
目頭が熱くなって、少しだけ視界がぼやけてきたから思わず顔を下に向けた。
斎「許さん。一人で抱え込んだあんたも、あんたを追い詰めた奴も。」
「ゆ…許さんって何するの?」
少しだけ物騒な言葉に思わず涙が引っ込んだ。
顔をあげると斎藤がまだ怒ったような表情で立っていた。
斎「捕まえてやる。」
「どうやって?」
斎「その手紙はいつ机に入っているんだ?」
「えっと…朝来た時と、これはいつのまにか昼過ぎに入ってたけど…。」
斎「こい。」
「え?」
腕を引っ張られ立ち上がるとそのまま教室の後ろにある大きな掃除用具入れの中に入れられた。
「え!?え!?!??!」
斎「静かにしていろ。」
バタンと掃除用具入れのドアを閉められる。隙間から入る光で中は見えるけどそれより何より
(ちちちち近い!)
掃除用具入れの中に人が二人入っているんだ。
自然と斎藤と密着する形になってしまいうまく呼吸ができない。
ちらりと見上げると斎藤は涼しい顔をして隙間から教室を覗いていた。
「あの…。」
斎「朝に手紙が入っているということは、早朝に教室へ来るか、放課後遅くに教室へ来るかのどちらかだ。だか前者の可能性は低い。俺が委員会か勉強の為にだいぶ早く来ているからな。だとすると…。」
「あ。」
犯人は放課後に手紙をいれに来るってこと?
いや、ちょっと待って。
それより何より近いから。
何でそんなに普通なの!?
…そりゃそうか。
斎藤は私のことなんて何とも思ってないんだもん。
「さいと…。」
斎「静かにしろ。」
「むっ!?」
開きかけた口が斎藤の手によって押さえられる。
だから!何であんたは…!!!
斎「誰か来た。」
「へ…?」
掃除用具入れの隙間から目を細めて教室の中を見る。すると確かに誰かいるようで…。
その誰かは真っすぐに私の机に近づくと何かを机の中に入れていた。
「あれ…。」
斎「あいつは…。」
その人物が机から離れようとした瞬間、斎藤が勢いよく掃除用具入れから飛び出した。
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