偽恋ゲーム | ナノ

▽ 4



母「真尋ー!もうすぐ準備できるわよー。」


 「はーい。」


そしてきました、誕生日。
朝からお母さんが張り切ってケーキを焼いていたのはいい。
だけどお父さんも張り切って無駄にそわそわしていたのは何なんだろう。
しかも戦力外だからお母さんに邪魔って言われて少し悲しそうにしていたし。

そんなお父さんが哀れでさっきまで二人で買い物に行っていたのだ。
誕生日はいい。ここぞとばかりにおねだりとやらができるからね。
ふふふーゲーム二つも買ってもらっちゃった。
ついでに服も買ってもらったしね。うん、大丈夫、ぎりぎり高校生。男子小学生ではないよ私。


いろいろお店を回って帰って来た時には夕方になっていた。
買ってきた服の整理をしてゲームの説明書を読んでいたらお母さんに呼び出されたというわけ。


部屋を出て一階へ降りていくとリビングのテーブルはいろんな料理で埋め尽くされていた。
しかも私の好きなものばかり。


 「わーーい!おいしそう!」


父「たくさん食べるんだぞ、真尋。」


母「誕生日ぐらい気にしないで食べなさいよ。…ってあんたはいつも気にしてないわね。」


 「もちろん!」


父・母「「お誕生日おめでとう。」」


 「ありがとう!いただきまーす!」


そう言って目の前の料理に手を伸ばした時だった。



――ピンポーン


玄関のチャイムが鳴り、お母さんが立ち上がる。


母「誰かしら?はーーい!」


なんとなく食事に手をつけられず、お父さんとおいしそうだねなんて話をしているとバタバタとお母さんが慌ててリビングに入ってきた。


母「真尋!真尋!!」


 「何ー?どうしたの?」


母「さ…さ…斎藤君。」


 「は?」


母「斎藤君が来てるわよ。」


 「へ?」


私の間抜けな返事と、お父さんがグラスを倒した音がリビングに響いた。


一瞬理解するのが遅れたけれどつまり斎藤が我が家の玄関にいますよってこと?



え?
なんで?今日部活じゃ…。
いや、部活は終わっているにしてもどうして?

とりあえず立ち上がり、ゆっくりと玄関に向かって行った。


するとやっぱり玄関に立っているのは間違いなくあの斎藤で。
私に気付くといきなりすまないと小さな声で呟く。


 「どうしたの?部活は?」


斎「部活はもう終わった。今日は朝からだったからな。」


 「ふーん。で、どうしたの?」


斎「それは…。その…。」


斎藤の様子がおかしい。
目がきょろきょろ泳いでいるし、いつもはっきりとした口調で話すのに今日はとぎれとぎれだ。


 「斎藤?」


斎「今日は…だろう?」


 「え?何?」


声が小さくて聞きとれない。
一歩斎藤に近づいて聞きかえす。


斎「誕生日…だろう。」


 「え…。」


そう言って斎藤は私に小さな紙袋を渡した。
あまりにも突然で思わず受け取るけれど開けていいのか分からず立ちつくす。


斎「開けないのか?」


 「…参考書…とか?」


斎「それを所望なら今すぐにとりかえてくるが。」


 「嘘です、ごめんなさい。斎藤様。」


なるべく丁寧にシールをとって中身を確認すると驚きすぎて袋を落としそうになった。

だって。
だって…。


あの時のネックレスだ。


 「何で…?」


斎「欲しかったのではないのか?」


 「そうだけど。」


欲しいなとは思ったよ。
だけどどうしてそれを買ってきてくれたの?
私は本当の彼女じゃないのに。
そういうのが面倒だから偽者彼女を作ったんでしょ?
なのにどうしてわざわざ当日に家に届けたりするの。
斎藤がよくわからない。


 「似合わない…じゃん。」


斎「貸せ。」


そう言って斎藤は私からネックレスをとると靴を脱いで上がり私の後ろへ回った。
ふわりと風を感じたと思うとネックレスが首元におりてきて、斎藤がつけてくれたんだと理解する。


斎「あんたは自分が言ったことを忘れたのか。」


 「え?」


斎「俺に猫を押し付けた時だ。」


猫?
ああ、ゲーセンでとった猫のことか。
ぼんやりとそんなことを考えているとネックレスをつけ終わったのか、斎藤が私の隣に立つ。
近距離で向かい合うのは少しだけ恥ずかしい。


斎「似合うとか似合わないとか、他人が決めることではない。好きなものを好きって言って何が悪いと言ったのはあんただろう?」


 「それは…。」


斎「…似合っていると思う。」


それまで目を逸らしていた斎藤が、最後のその一言だけ真っすぐにこっちを見て言った。


斎「誕生日、おめでとう。」



その瞬間。
ガンと頭を思い切り殴られたような衝撃を受けてしまったのだ。


つまりそれは。


 「っ…。」


顔に集まる熱に自分の気持ちを確信してしまう。


斎藤も恥ずかしくなったのかいきなり靴を履き始めた。


斎「突然すまなかった。俺はそろそろ…。」


母「あら、斎藤君。ご飯食べてって?今日はこの子の誕生日だから。」


いきなり玄関の方に現れたお母さんに私も斎藤もびくりと肩を震わせた。


斎「いや…それは…。」


母「いいじゃない。ね?そうしてあげて?」


そう言うとお母さんは斎藤の腕をひいてリビングの方へ強制連行してしまう。
…お母さん、予定とか聞いてあげてよ。


リビングに戻ると複雑な顔をしているお父さんと楽しそうなお母さん。
そして隣にはもっと複雑な顔をしている斎藤が居て。


誕生日の中でも今日が人生で一番記憶に残ると思う。

家族以外の、しかも同級生の男の子が一緒に食卓を囲んでいて、しかもその男の子に恋をしてしまったことに気付いた日なのだから。


つづく




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