▽ 3
「はあ…。」
公園のベンチに座り、手にはポータブルゲームを持ったまま。
起動させることもなく私はぼーっとしていた。
子供達が遊具を使って遊んでいるのをただ見ている。
こんなに何かしようって考えるなんて。
やっぱり私、斎藤のこと好きになっちゃったのかな?
でも認めたくない。
だって…そんなしんどそうなこと。
「新太君に元気もらおっかなぁ。」
呟いてゲームを起動させようとするといきなり声をかけられた。
斎「…あんたは、公園でもゲームするのか。」
「ぎゃああああ!」
斎「なっ何故そんなに驚く!?」
「いいいいいきなり話かけないでよ!」
慌てふためく私の隣に斎藤が座る。
何でここに…?という思いが顔に出ていたのか斎藤は説明しだした。
斎「総司が…あんたが上の空でふらふらと帰って行ったと言っていたのだ。だから…。」
「ついてきたの?」
斎「人をストーカーのように言うな。この近くの本屋に用があっただけだ。」
「あ、そ。」
そう言って一度止まる会話。
あれ、どうしよう。
何話せばいいんだろう??
今までは何も気にすることなんてなかったのに。
無言に耐えられなくなってきた頃。
突然可愛らしい声が聞こえてきた。
「ねえ、お姉ちゃんそれゲームだろ?通信できるのー?」
「え?」
「俺達今このゲームしてんだ。お姉ちゃんもやってるの?」
気付いたらさっきまで遊具で遊んでいた子達が私達のベンチのところで集まっていた。
差し出されたゲーム機に映っている画面に見覚えが合った。
確かダウンロードしてゲーム機に入っているはずだ。
数人で魔物を退治しに行く有名なやつ。
「持ってるわよ。それ。」
「ええ!?じゃあ俺達とやろうぜー!」
「お兄ちゃんもやるの?」
斎「いや、俺は…。」
「なんだー。じゃあお姉ちゃん入ってよ。あっちあっち。」
「ちょ…引っ張らない!!」
私は少年達に引きずられるように遊具の方へと連れていかれた。
そこには何人かゲームをしている子達がいて私が入っていくと驚いた顔でこっちを見る。
「…誰?」
「…通りすがりの女子高生よ。」
「この人もゲームするんだって!みんなで狩り行こうぜ!!」
「姉ちゃん強いの?」
「当たり前じゃない。あんた達よりは強いわよ。」
ゲームを起動させ通信する。
うん。さすがにまだまだ小学生には負けないわよ。
「お姉ちゃん武器しぶっ!剣とかじゃねえの?」
「当たり前でしょ。女は度胸よ。」
「あははは!意味わかんねえ!」
そんなこんなで小学生達とのゲーム大会が始まってしまった。
――――――――――――――――――――
「お兄ちゃん、一人なの?」
斎「?」
先ほどまで廣瀬が座っていた位置に少年が座っていた。
斎「…混ざらないのか?」
俺は視線を廣瀬達のほうへ向けて少年に問いかける。
「今日はゲーム置いてきた。だから見学。」
斎「そうか。」
「あのお姉ちゃん彼女なの?」
斎「か…。」
最近の小学生はませているとは聞いていたが。
さらりと彼女なのかと聞かれると少しだけ戸惑ってしまった。
斎「…さあな。」
嘘をつくわけにもいかず、だが違うと言うのも躊躇いがあった。
とっさに答えた返事が我ながら中途半端で情けない。
「ふーん。」
廣瀬を見ていると子供達と一緒に画面に向かって何か叫んでいる。
あーとかそこじゃないとか少し離れた俺達の所まで響いていた。
「…変わったお姉ちゃんだね。」
斎「ああ。」
否定しない。
申し訳ないがその通りだ。
「でも。おもしろくていいね。」
斎「…ああ。」
それも否定できなかった。
確かにあいつはおもしろい。
「あーあ。ゲーム持ってくればよかった。」
斎「持っていなくとも会話には入れるだろう。あそこに行くか?」
「じゃあお兄ちゃんもいこ。」
斎「ああ。」
少年の後をついていき、俺は廣瀬達の輪に入って行った。
狩りに失敗したのか、小学生と同じ表情で悔しがる廣瀬に笑いがこみあげてきた。
女子の良いところなど俺にはよくわからぬが。
こいつが悪い奴じゃないことぐらいはわかる。
騒がしい声に気を取られ、誰かに見られていたなんて、この時の俺達は気付いていなかった。
つづく
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